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"どーでもいいこと"を敢えてシェア

 フリーランスの英語講師。基本的に私の授業プランは自由。以前は人に見てもらって意見されることが必要なんじゃないか、と思ったこともあるけど。ある時に学校の研究授業に参加してみて、ある若い先生の授業にいろいろな立場の方々が意見しているのを見ながら思った。
「どのアドバイスも、私にとっては的外れ」
 多分それは「学校の先生として」必要な指導法だったからだろう。テーマが「いかに管理するか」「いかにゴールに導くか」で、それは私のゴールと全然違った。
 というかそもそも私にゴールはない。その日子どもたちと一緒に作り出せる空気そのものがその日の収穫となる。あらかじめ何を収穫するか決めていては、その果実がそこに育たなかった時に腹を立てたり無理矢理形だけでも育ててもぎ取って帰ろうとするだろう。私は未熟だから。人間ってきっとそうなっちゃうものだから。
 だから、私は子どもたちと一緒にフルーツ狩りに行くつもりで。道中道草を食いながら歌ったり遊んだり。他愛もない話をしている間にその子のことをしみじみ味わう。「そんな風に考えるんだね」「それがとっても好きなんだね」果実をもぐことが目的じゃなくて、出発から家に帰り着くまでがフルーツ狩りです、的な。その道中が楽しみ。
 でも不思議と授業の後はいつもお腹がいっぱい。何がなんでもフルーツをもぐ、っていう目的がないから、想像もしていない美味しい果実を得ていつもハッピー。収穫がない日なんてないんです。そもそもその道中自体が美味しい果実なんだから。

 海外の先生の授業を参考に授業の最初には、みんなでその週の良かったことや初体験を話すGood and Newというコーナーを設けた。子どもたちに日々の小さな"良いこと"を探すこともして欲しかったから。これをもう数年続けているが、子どもたちにしっかり定着したし一定の学習効果も私はこっそり感じている。でも最近ふとこの方法と自分自身に疑問を感じた。世の中のSDGs然り、なんだか人の明るい部分だけにスポットを当てて外部から「明るくいること」を強要しつつ、陰の部分はまるで無かった様に無視して結局中身スッカスカのハリボテの王宮みたいになるのは怖いな、と。
 そんな時、これまた海外の先生によるBoring Thingsのシェアというのを見つけた。所謂「誰得(それ知って誰が得をするんだい?!)情報のシェア」。「それだ!」と思い、早速翌日からクラスで「GoodとかNewが思いつかない人はBoring Thingsいってみよ〜!」と説明。
 
 何か新しいこと(しかも発表)を始める時は、出来るだけハードルを低く低く下げる様にとにかくたくさん例を出す。例えば先生のBoring Thingsはね、(以下英語の和訳)「スイカに塩かけて食べるのが嫌い」。「最近筋トレ始めました」とか「靴紐を結ぶのが苦手です」とかもあるよね…思わず「はぁ?!」って言いたくなるみたいな、どーでもいい話よ!

 子どもたちはクスクス笑いながら、まんざらでもなさそうに何かを思い出している顔になる。
 ある生徒が手を挙げる「今日靴に鳥のフンが落ちてきた〜!」
すると、引っ張られる様にして続く続く「この間外で何か食べようとしたら、急に鳥がバサって食べ物取って行った」「ご当地キャラが好き」「この間一日中ずーっとテレビ見とった」「平和の日に鶴を折ろうと思ったら、折れなくて変なのが出来た」…

 どーでもいい話のシェアで、みんなずっと笑ってた。ずっとワクワクしてた。あぁ、これか、と。私は自分の授業でこれがしたかったんだと思った。
「そんなの時間の無駄です」
「いいから〜要点だけ言って」
「その話、オチねぇ〜」
 そんなことを言われ続けて、私たちは言葉をどんどん選んで封じ込めていく。心の中に言いたかったことがどんどん残っていくのが、当たり前になっていく。でも実はその中にその人が感じたものが入ってる。そしてそのシェアって面白い!

 バックパッカーをしていて思ったのは、始めて出会った海外の人たちがすぐにキャンプファイヤーとか、宿のリビングとかで笑い合えるのは、本当にどーでもいい話だったな、ってこと。それで笑いながらお互いを知る。どーでもいい話をしている間に自分の心の中がポロッと出てきて。思わず一緒に泣いたり笑ったり。そうやって知らずの内に相手のことを想う。名前も覚えてないどこの国から来たかも忘れちゃった、そんな人のちょっとした話を今でも思い出すことがある。

 ふと生徒が言う。
「どーでもいい話って言いながら、面白いのばっかりやん」
心の中で小さくガッツポーズをしながらも、更にハードルを下げる。
「いやいや、ほーんとにどーでも良くていいんだってば!みんな面白い話しようとせんでいいとよ。どーでもよければどーでもいい程いいんだから!」

 今、手を挙げようか躊躇しているあの子は、来週か再来週、きっととびきりのどーでもいい話をしてくれると思う。


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