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歴史小説「Two of Us」第4章J‐13

割引あり

~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第4章 Foward to〈HINOKUNI〉Country


J‐13

 二杯目の八女茶があなたガラシャ珠子の古伊万里茶碗に注がれると、与一郎忠興は、傍に居た若手の侍従に何がしかを頼み事する。
 二十歳前の彼は黙って頷いて、広間から姿を消した。

 あなた珠子は引き続き、『大坂玉造屋敷からの大脱出』を語る。
「侍女が待っていたのです。女官のシモとオクです。
 わたしと常に帯同しているマリア
(清原イト)と、シモとオクが連携して
わたしを丹波の隠れ家まで誘導してくれました。

 屋敷仕えの皆とその子供を、千代様と伊也様で外に逃がす役目をして頂き、最後には小笠原殿と川北石見殿と稲富佑直殿、そしてマリアとわたしだけ残りました。
 3名に最後まで闘って守って頂き、満水にしたお堀の内側に火を付ける頃には、もうマリアと私は台所の『越中井』に潜り込んで通り抜けを始めていました。小笠原殿はわたしを介錯したふりをして屋敷と共に自害をなさる手筈でした。誰も口を割らぬように稲富殿には伝令をお願いしました。川北殿にはフランキ砲を渡し、お堀の渡し橋を全て取り払って頂き、多分、自刃もしくは討ち死にしておられます。
 女子供は行き先なければ、豪姫
(忠隆の妻千代の姉で前田家出身)を頼って隣の宇喜多家屋敷へ駆け込みなさい、と指示しました。
 宇喜多家は敵方ですが、豪姫様とは以前から行き来がございます。公明正大なお方なので、頼みの綱でした」

「宇喜多秀家殿は蟄居(ちっきょ)されておるが、いづれ関東の島流しとなるであろう。徳川の秀忠殿が采配されるが、豪姫は10年間ずっと物資や兵糧を送っておられるぞ。慈悲深い姫だ。忠隆の妻や妹の伊也も無事で生きておったぞ❓」
「さようでしたか。有り難きことです。幽斎殿の内膳家で千代様もお暮しなのですね❓」
「いかにも」

 その瞬間を見計らって、先程の若手侍従が盆に乗せた薩摩切子のグラスを運んで来た。もう一人の珠子の側近は、暗赤色の透明な液体を、水差しのようなクリスタル容器にて、差し出す。既に芳醇な香りが漂っている。


「おお!持って来てくれたか。さっそく頂こうぞえ❓
 珠子。これは小倉祇園で造らせている、葡萄酒だ。忠利が酒よりも好物でのぅ。我らはキリシタンではないが、ガラシャ珠子を偲んで『がらみ』という種の赤葡萄で造らせ、八年寝かせたものぞえ。
ささ、相伴に預かってみようぞ❓」

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