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ともえちゃんのラリアート 2



ともえちゃんの部屋はお世辞にもキレイとは言えな


い状態だった。台所のジンクには食器なんかが乱雑


に重なってあった。後、食べかすだ、納豆のパック


なんかが散らばっている。私はとりあえず一通り片


付ける事にした。食器を洗っていると、ともえちゃ


んがTVを点けた。『遠征中はTV観れないんだよ


ね。』と言っている。私はとりあえずTVを観れるだ


け回復してくれて何よりだと思った。そうこうして


いるうちに部屋らしくなった。ともえちゃん本人も


この部屋に帰って来るのは久しぶりだと言った。残


すは洗濯だけだ。下着類は自分でやるとともえちゃ


んは言った。空気の入れ換えもした。人がしばらく


住んでない空気の重さを感じた。玄関のドアをあけ


ていたら隣の部屋の人に見られてしまった。私はす


ぐにドアを閉めた。










夕食は外食にした。私はもっと雰囲気があるところ


でも良かったんだけど、中野のお好み焼き屋になっ


た。車で来たから私はノンアルコール。ともえちゃ


んはビールを頼んだ、お好み焼きを焼いては、つま


みながら、私は「また次、怪我したらどうする


の?」と訊いた。『引退かもね。』笑って言ったけ


ど、笑えない。ともえちゃんは続ける


『お客さんが喜んでる姿見ると忘れちゃうんだよね。』


また笑って見せた。


お好み焼きを見ながら「でも自分を大事にしてね」


それを言うと『自分よりお客さんの方が大事。あ、


来月試合決まったから絶対観にきて!』


「ともえちゃん…」私はどこまでも心配だった















7月の日曜日だった。ともえちゃんの試合の日は。


会場に着くとファンで賑わいを見せていた。


今日は野外のリング。


初めて生で見るリングは想像よりも小さく見えた。


ともえちゃんはラストの試合だ。


だから私に絶対観にきて!と言ったのかと思った。


ファンの人たちはビールを飲んで楽しそう。


第一試合が始まる。スモークが焚かれその中を選手


が出てくる。みんな鍛え上げられた肉体が女子とは


思えないほどだ。やはり途中で凶器が出てくる


私は目を伏せた。試合はテンポよく進んで行く。


次の次ぎがともえちゃんの試合だ。私は席を移動し


た。そして、いよいよともえちゃんの試合が始まる


私は興奮より心配の方が勝っていた。


ともえちゃんが出てくる、対戦相手も出てくる、試


合が始まった。最初はともえちゃんが攻めていたの


にもかかわらず、後半やられっぱなしのともえちゃ


ん。相手がギロチンのジェスチャーをする。リング


上で倒れているともえちゃんにコーナーポストから


ジャンプするつもりだ!


私は叫んだ。ともえちゃんにはリングネームがちゃ


んとあるのに、私はともえちゃん!ともえちゃん!


と誰も知らない本名で叫んでいた。


私は叫ぶ





「ともえちゃん立って!!」






すると、ともえちゃんが意識を戻して立ち上がった。


コーナーポストの人間をリングに下ろし、ロープに投げた!




私が初めて見るともえちゃんのラリアートだった。



見事にラリアートが決まり



レフェリーがカウントを数える


1.2.3.!



ともえちゃん勝った、勝ったのだ。








呼ばれて控え室へ


ともえちゃんにおめでとうを言うと涙が出た。


ともえちゃんは


『あんなに本名で呼ばれたら起きるよ』


と笑った。私も笑った。



「でも自分の事大事にね」と言ったら、



『プロレスと美保に何かあった時にはただじゃ済ませないよ。』


と言うのであった。




やっぱり私の友達は、ともえちゃん!





           終わり

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