バーゲンブックを思い出す。


近くのジャスコ(そう、当時はジャスコだった)の広間にワゴンがたくさん並び、その中にはこれでもかと本が詰まっていた。

当時の私は《本の虫》といっても差し支えがないくらい本を読んでいたと思う。
学校の図書室、大きな市立図書館、家に積まれた祖母の本、そしてバーゲンブック。

ハードカバーをお手頃に手に入れられる。
親にとっても、私にとっても、ありがたい本との出会いの場だった。

私は読みたい本を探す。
親から「これ読んだら?」と言われたことはない。
祖母はおすすめの書籍を読んでみろと渡してくるけれど。

様々な本があるのに、思い出したバーゲンブック達はどれもこれも、少しばかり人間よりな、ファンタジーを愛でる私があまり選ばなそうな本だと思い出しながら気がついた。


はじめてバーゲンブックで買ったのはたしか
「南極物語」
あの、有名なタロージローの話である。
しかも写真がついていた。
私は南極に思いを馳せた。
その後、手当たりしだいに図書室の南極に関する本を読んだ記憶はある。
カラフト犬についても随分調べた気がする。
北海道に行った時、カラフト犬をみた。
力強い前足もふかふかの毛も素晴らしかった。


次に覚えているのが
「一休宗純」
そう。あの一休さんの話である。しかし、これはアニメにもなった幼年だけでなく、彼の生涯のものがたりであった。
なぜ選んだのだろう。昔から、不思議と、そういうものは好きだったのかもしれない。「宗教」の枠にとらわれないまま、そのものの考えを感じ取る。
子供の私が感じで覚えていることは
「そうか、皆いつか骨になるのだ…」ということだ。
それは確か正月で浮かれた村に髑髏をつけた棒を持って一休さんが出向いたシーンだ。
肉も食べるし、女も抱くけど、浮かべた船の上で悟りを開く。
そんな彼はとても魅力的だったと思う。

それから
「大きな木の下で」
という天然痘の話。
私は当時、天然痘を知らなかった。
もしかしたら、授業でやっていたのかもしれないが、私がハッキリ天然痘というものを認識したのはこの本を読んだからだ。
物語は天然痘にかかった置き去りの捨て子を世話し、天然痘と戦う家族が描かれている。日本人の話ではなくアフリカかなにか。ブッシュという聞きなれない言葉が出てきて辞書で引いた覚えがある。

それから
「ぼくのじしんえにっき」
という大地震が起きた物語。
この時、狂犬病をしる。
とにかく淡々と素直に子供の目線で地震のことが描かれた作品だと思う。
私はこれを読んで「備えよう」と思ったのかもしれない。
野草を口にしたのも、火起こしの方法を調べたのも、来る災害時にサバイバルで生き残る為………だった気がする。たまに思考がワイルド。

それから…
これは探しても探してもみつからないのだが
たしか題名は「人形の館」
戦争中の日本。市松人形が出てくるお話し。
何度も読み返した記憶がある。
あとがきまで。
実際に市松人形を集めていた方はいたらしい。
それは目の前で失っていった子供達なのである。
名前をつけ、かわいがり。
そうやって慰められるに至る過酷な過程が、描かれていた。
焼け落ちる家に向かい、幼い我が子の名を叫ぶ。
しかし、子どもたちが戻る事はなかった。
髪が焦げ、憔悴した母親に姪が預かっていた市松人形を渡し、やっと表情が戻ったというような、そんな物哀しい話だったと記憶している。
もう一度読みたいのだが、どう検索してもみつからず、東京の国立図書館に行くしかないか…と思ったりしている。


他にも読んでいる気がするが、覚えているのはこれくらい。
どれも、小学生の時に読んだもの。
あの時が一番《本の虫》だった。

最近は読むことはあまりしていない。
心躍る表紙と一文に出逢えば読むかもしれない。


私は本が好きだ。
けれど、文学が好きなわけじゃない。きっと。
私は誰かの世界をみるのが好きなんだ。
だから、本である必要はない。
本の紙の匂いや、ページの捲れる音、その時に流れる時間は勿論大好きだが、それに拘ることはない。

様々なことが溢れるこの世界で、感じ取るものはたくさんある。
本が色々考えたり、覚えたり、感じ取るのに手っ取り早いのは確かだ。
素晴らしいことも、素敵なことも確かだ。

けれど、どうかそれに囚われないで「あぁ!読んでみたい!」と思ったら読んでほしい。


読みなさいと言われて読む本ほど面白くないものはないと私は思っている。
「読みなさい」という人はその本をどう思うか語ってくれないことが多い。
ネタバレではなく、その人が何を感じたのか話してくれたら、それが楽しそうだと感じられたら、読む気も起きるよ。
と私はおもったりする。


読みなさいというよりは「さぁ!あの素晴らしい景色を見にいこうじゃないか!」と言うような感じでワクワクして欲しい。


本には世界がとじこめられている。
宝箱と一緒だ。
開いて中身を確かめるまで、それが本当にキラキラした宝物か、お化けや怖いものが詰まった箱かはわからない。


画面の前のあなたが素敵な世界に出会いますように。








サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。