リリーアンヌの記憶の記録。

一晩経っても治まらず、朝寝をしてもまだざわついてるため頓服を飲んだ。
これじゃ、話し合うにも話せない。

私の「好き」に呼応してか、リリーアンヌの記憶が止まらなくて酷く錯乱してしまった。

今もまだ混乱は続いてる。
私の気持ちなのか彼女の感情なのか、ぐるぐるしてよくわからない。

*

彼女は想いの過剰な人で、希死念慮があった。
それを知っていた人がその気持ちに呼応して、その人との心中に巻き込まれたのだろう。

だけど、彼女は死ぬなら恋人と死にたかった。
それと同時に彼の存在だけが生きる糧に、救いになってた。

小舟で沖へ連れられて、海の中に引きずり込まれる直前に、彼の姿を見た。
溺れる最中、死にたくないと願い、助けて欲しいと願い。

だけど彼は去った。

命を助けたのは通りがかりの漁師で。
ああ、このまま死ねばよかったと。

同時に呪いのような感情が沸き上がった。

これで、彼の中に自分は消えない傷としていつまでも残るのだろうと。
どこまでも、おなじだけ沼の底まで堕ちてくれば、やっとこれで一緒になれる、たとえ別の場所で生きていたとしても。
そう感じていた。

彼女にとって希望のようであった彼は、同時にけっして手の届かない解り合えない存在でもあり、自分の存在が疎ましいと同時にわかってほしいなどと浅ましい気持ちが消えなかった。

「これ以外の愛を私は知らない」

彼女はそう言う。

だけど、彼女が彼に恋をした記憶だってあるはずなんだ。
彼の何に惹かれたのか、彼と居てどんな気持ちを教えられたのか。
彼を好きになったのは、けっして不幸になるためじゃなかったはずだ。

リリー(百合)の花言葉は、「純粋」「無垢」。

トラウマの記憶に上書きされてしまった彼女の恋にも、ただただ優しいだけの幸せな時間があったはずだと信じたい。

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