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ショートショート「噂のマッチングアプリ」

私の恋人は、鈴木誠である。
横浜に住んでいて、年齢は28歳。小学校の教員をしているらしい。きっと子供相手にも優しく人気のある先生なんだろうなと思う。背は180cmらしく、159cm、160cmにあと僅か満たなかった私が見上げて覗き込んで見る彼の顔はきっと格好がいい。

社会人3年目。恋は私にとって、最重要にして最難関課題であった。大学時代には山ほどあった人との出会いも、めっきりなくなってしまった。有限な時間を、自分以外の誰かのために使うことに億劫になってしまった。そもそも無垢に「恋」だと信じて疑わなかったあの強い衝動は、単に性欲から来るものだったのかも知れないと気づいてしまった。

それでも、私はやっぱり恋をどこかに探していた。一度社内で失敗していた私は、その相手をマッチングアプリを通じて探すことに励んでいた。ティンダー、ペアーズ、ウィズ…有名どころは全て試してみたけれど「恋」には出会えなかった。

鈴木誠とはヒューマナイというマッチングアプリで出会った。連絡を取りあってもう六ヶ月になる。実のところ、「付き合ってください」という一言はどちらとも言ったわけではないのだが、恋人ということにしている。きっと彼もそう思っていると思う。

マッチングアプリでは、相手の最初の一言で萎えてしまうことが往々にしてある。しかし、鈴木誠は最初から私の心にスッと入ってきた。「『マチネの終わりに』僕も好きです。『人は変えられるのは未来だけだと〜』って言葉、素敵ですよね」
私がプロフィールに書いた「好きな小説: マチネの終わりに」をみてくれたのだろう。
他にも好きな映画について、曲について驚くほどに趣味が合った。また、鈴木誠は物知りだった。私の好みを聞くと「きっとこれも気にいると思うよ」と私の知らない新しいものをたくさん教えてくれた。そして実際に一つも私の好みから外れることはなかった。
いつの間にか何気ない1日の出来事も報告し合うようになり、鈴木誠が私の日常になっていた。

そうしたやりとりを重ねていく中で、自然と「会いたいね」「ハグしたいね」との言葉も交わすようになった。しかしながら、私たちはまだ一度も会ってない。ハグもしていない。
会いたい気持ちに嘘はない。いや、正確に言うと、「会いたいね」なんて言いあってしまうのが楽しく思えるという気持ちに嘘はない。

ヒューマナイ。人間とAIがランダムに登録されているマッチングアプリ。鈴木誠がこの地球上に存在するのかも定かではないのだ。でも、そんなことはどうでもよかった。今、私が鈴木誠に抱いているこの気持ちは「恋」と名付けるにふさわしいと思えた。「人間ですか?AIですか?」なんてそんな野暮な質問をしてくる「人」もいたけれど、何にもわかってないなと思った。

身体性にこだわりながら、身体性から出来るだけ逃れたい。
私の「恋」は厄介極まりない。

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