連載小説「オボステルラ」 【第三章】3話「価値」(4)
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3話 価値(4)
結局、あちこち聞いて回ったが、この街での巨大鳥の目撃情報は一件もなかった。むしろ、ストネの街に巨大鳥が現れたという噂を知っている人から逆質問に遭ったくらいだ。
「水場を探して押さえておく方が、まだ遭遇できる確率が高いかも知れないわね」
工房街からの帰り道、エレーネは地図を見ながら、明日の計画を考えていた。
「ミリア。巨大鳥は、川の水を飲むことはあったのかしら?」
エレーネの質問に、ミリアは記憶を蘇らせる。
「ええと、川に寄ることはほとんどなかったわ。何回か、森の奥深くにある川の源流のようなところには寄ったことはあるけど」
「ということは、街の西の大きな川は外して考える必要があるわね…。あとは森…。この辺りは、森は少なそう」
「湖や泉のような水場の場所を知らないか、街の人に尋ねてみようか。鉱山との行き来がある人なら、周辺の地理にも詳しいかもしれない」
リカルドがそう、エレーネに申し出る。しかしもう夕方、日差しは大分傾いてきている。
「…ま、それは明日でいいか。お腹空いたね」
「そうね、今日はもう十分歩き回ったじゃない。ご飯食べて休みましょうよ」
ナイフがうーんと背伸びする。そして、ずっと元気がないゴナンに目を遣った。いつものようにリカルドの隣を歩いてはいるが、いつも以上に口数が少ない。落ち込んでいる、というよりは、何かを考えている様子にも見えるが…。
と、その横でリカルドがスッと素の顔になる。
「……食堂は、昨日と違うお店にしていいかな?」
「……ええ、そうね。いろんな所の味を楽しむのも、悪くないわね」
そう言ってナイフは、食堂街を物色しはじめた。よほど故郷の人間に会いたくないのだろう。
ゴナンもリカルドも、何かが少し、心配である。
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「あら、エレーネは?」
今夜の食事の店を決めたとき、エレーネの不在に気付いたナイフは、ミリアに尋ねた。
「先に宿に戻ると言っていたわ。いつも飲んでいるお薬が切れそうになってて、届けてもらえるよう伝書鳩を飛ばしていたの。念のため、夜はゆっくり休んでおくって」
「薬……? この街に薬屋さんはあるけど、そこにあるものではだめなのかな」
「なんだか、瓶に入っている液体のお薬のようだったから、特別なものかも知れないわ」
ミリアは少し心配そうに思い出している。
「エレーネ、何か持病があるのかしら。わたくし、そんな事情も気にせず引っ張ってきてしまって……」
「……まあ、彼女は、旅が無理なら無理だときちんと言ってくるよ。今までも長く旅をしているようだから、大丈夫じゃないかな? ミリアが気をつけて見てあげればいいと思うよ」
リカルドは微笑んでそう励ましながら、食堂の扉を開けて中に入った。
昨日訪問した食堂よりも少し賑やかしい雰囲気の店だ。職人や工場勤務の者だろうか、大声でわあわあと話している男達があちこちにいる。
視力だけでなく耳もいいゴナンは、そのけたたましさに驚き、キョロキョロと店内を見回している。
「あら…、ちょっとガラの悪い感じのお店だったかしら…。お店、変えましょうか?」
ナイフはミリアを自分の方に寄せながら、店内を観察してリカルドに尋ねた。
「また探すのも手間だし、ご飯を食べるだけだからいいよ。長居はしないようにしよう」
リカルドは薄く笑って、マントと武器をお店のスタッフに預ける準備をする。いつもなら、すぐ「店を変える」と言ってきそうなものなのに、やはりリカルドも何かがおかしい。
「ミリア。もしお手洗いに行きたくなったら、私がついていくからね。1人にはならないようにね」
「ええ、ありがとう、ナイフちゃん」
「ゴナン、どうしたの、キョロキョロして」
ゴナンは、働き盛りの男性ばかりの雰囲気が珍しいのか、ずっと店を見回していた。
「何でもない。…リカルド。今日は自分のご飯代、自分で出すから」
「……」
また、お金のことを気にするゴナン。リカルドは少し哀しい顔になる。
「ゴナン、だから…」
「ゴナン。ここは私達みんな、リカルドにご馳走になるのよ。だからあなたも同じようになさいな」
ナイフがゴナンをそう、説得した。
「ね、それでいいわよね、リカルド」
「あ、ああ…。もちろんだよ。今日はみんなに、僕がおごるよ」
ゴナンは無言で頷く。少しホッとした表情のリカルドに、ナイフはふう、と息をついた。今、ここで揉めても仕方が無いし、ゴナンとは後で一度ゆっくり話をして、彼の気持ちを聞いた方がよさそうだ。
↓次の話↓
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