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連載小説「オボステルラ」 【第三章】3話「価値」(2)


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第三章の登場人物



3話 価値(2)


「今日は随分、大人数ですね。何事ですか?」

穏やかな笑顔で話しかけてくるタイキ。

「うん、訳あって、このメンバーで旅をし始めたんだ。で、彼に野営用のいい道具を揃えてあげたくて」

「へえ…。ずっとお一人のようだったのに、心境の変化ですか? うちのでよかったら、ゆっくり見ていってください。今は商品もそろっているので…」

ぺこりと頭を下げたゴナンにニッコリ微笑むタイキ。線が細い男性で、ここに来るまでに見て来た職人たちとは随分雰囲気が違う。

「ゴナンはね、タイキさんの寝袋の寝やすさに驚いて、魔術みたいって言ってたんだよ」

「魔術? それは最高の褒め言葉ですね」

腕を組んで嬉しそうに笑うタイキ。そして店の奥の工房を指さす。

「ああ、今、ちょうど寝袋を作ってますよ。リカルドさんが持っているのと同じタイプのものです。『魔術』見ていきますか?」

ゴナンは目を輝かせて頷く。導かれて工房へ入ると、そこでは2人の女性が寝袋の作業をしていた。

「まあ、こちらでは女性の職人が活躍されているのね」

ミリアが嬉しそうに声をかける。
今まで見て来た工房では、店頭に女性が立つお店はあったものの、作業しているのは皆、男性だった。ア王国では、職人や機械士といった職業は男性の仕事、というのが一般的なのだ。

「ええ、うちの製品は布を扱いますし、織ったり縫ったりの作業は女性の方が上手に仕上がる場合も多くて。といっても、彼女たちは私の妻と娘です。よく手伝ってもらっているんです」

「奥さんと、娘さん……」

母の方はタイキと同じ年頃、そして娘の方はゴナンやミリアと同じ年頃に見える。2人は会釈して、すぐ作業に戻った。今は寝袋に綿を入れる作業をしているようだ。

「これは、何の綿?」

ゴナンが興味津々に尋ねる。すると、穏やかで物静かな雰囲気だったタイキの瞳が、キラリと光った。

「これはね、3つの種類が入っているんですよ。リープ鳥の胸の部分の羽毛と、スイト鳥の羽毛と、ビシンという木になる綿が2対5対3の割合になるように混ぜてある。リープ羽毛は熱をため込んで、ビシン綿は逆に熱を放出する機能があって、スイト羽毛は調温調湿機能に優れていて、その絶妙なバランスを取ってるんです。そして、ユーヨ材の木の繊維で織った布にも同じ機能があるから、よほど外気が熱すぎたり寒すぎたりしない限り、とても快適に眠れるように調節しているんですよ」

突然、朗々と語り出したタイキに、ゴナンは少し面食らう。
ナイフは「リカルドがうんちくを語るときにそっくり」と含み笑い顔だ。

「綿を入れるのは、娘さんの仕事?」

「ええ、そうです。綿を均一になるように広げてキルト状に縫う作業は、最近では娘が一番上手になってしまって。前は僕や妻がやってたんですけどね」

「へえ…」

ゴナンは目を輝かせて、娘の作業の様子をじっと見る。大して力を入れてる風でもないのに、手でさあっと袋を撫でると、その一撫でで綿が平らに整っていく。この上に外布を乗せ、手作業で縫いを入れていく。指先も滑らかで、とても洗練されている作業であることがわかる。



「すごい、かっこいいな」

ゴナンは思わずそう、漏らした。娘は少し照れくさそうにして、「あ」と呟く。ちょっと手元が狂ってしまったようだ。

「あ、ごめんなさい。俺が見てると邪魔になるな、出ていくよ」

そう娘に声を掛けて、ゴナンは店舗の方へと急いで引き上げて行った。






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