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連載小説「オボステルラ」 【第二章】45話「仲間達に」(5)


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第二章の登場人物



 リカルドは少しピリッとした微笑みを浮かべて、ミリアに反論した。

「僕を軍に突き出す? なんでだい? 不敬罪? それとも、君を攫った悪漢にでも仕立て上げるつもり? そんなの、いくら王女の権威があっても無理が過ぎるよ」

しかしミリアは、背筋をスッと伸ばし凛とした声で続ける。

「いいえ、あなたは王家の秘密を知ってしまっているもの。王族しか知っていてはいけないことを」

「……?」

ミリアは少し口元に微笑みを湛えて、続けた。

「ゴナンが寝込んでいるとき、最初に地図を書いたときのことよ。王子王女の影武者の選ばれ方や、現状の詳細な影武者の情報、それに国王の真の意向、そういった話を詳しく聞いたじゃない。あれは、王族とそこにまつわる者しか知ってはいけない情報なの」

「……!」

「でも『うっかり』あなたに漏れてしまった。だから、情報がほかに漏れないよう、王城にあなたを拘束する必要があるわ」

リカルドは、唖然とした顔でミリアを見た。

「わたくしを旅に連れて行ってくれるのなら、わたくしがあなたを見張ることができるから、拘束する必要はないけれども。ね」

「……君は、そのために、わざと僕にあんな詳しい王家の裏話まで話したのか……?」

ニッコリ笑うミリアに、いつのも微笑も忘れ憮然とした表情を見せるリカルド。ナイフとエレーネは、思わず吹き出した。




「ふふっ。リカルドに一杯食わせるなんて。流石よ、ミリア。ちょっと清々したわね」

ナイフが面白そうに笑い、エレーネもこらえきれない。リカルドはじろりとナイフを睨んだ。

「王家の話を聞いているとき心の中ではアラートが鳴っていたはずよ。なのに、自分の好奇心に勝てずにあれこれ聞いてしまったあなたの責任ね、“博士”」

エレーネも、笑いを押し殺しながらそう続ける。リカルドは、しばし頭を抱える。

「……いや、ダメ、やっぱりダメだよ。そんな屁理屈は通用しないよ。横暴だ、僕は戦うぞ。せっかく、ゴナンとの旅がこれから始まるってときに、ね」

リカルドはそう言って、隣でずっと大人しくしているゴナンに振った。半分以上話が分かっていなかったゴナンは、ビックリしたように姿勢を正す。

「あ、うん。でも、別に人数が増えるのはいいかなとは思うけど…」
「……え、そうなの……?」

少しだけショックを受けるリカルド。

「だって、巨大鳥と卵を追いたい気持ちは、とてもわかるし。多分、俺なんかの気持ちよりも…、もっと…」

ゴナンはうつむく。しかしすぐに顔を上げると、ミリアに手を差し出した。





「一緒に行こうよ。別々で行くよりも、みんなで行く方が心強いよ。俺も、獲物もたくさん獲るし、絶対、お腹は空かせないから」

「え、獲物? お腹?」

「俺、しっかり、助けられるようになるから」

「……」

ミリアは差し出されたゴナンの手をとった。握手のような、エスコートのような、少し不思議な形になったが、ミリアはその手を見つめて嬉しそうに微笑んだ。

「ええ、ゴナン。ありがとう…」
「……」

その微笑ましい姿を見て、リカルドはふう…、とソファにもたれかかる。

「……わかったよ…。ゴナンがそう言うのなら……」
「あなた、とことん、ゴナンには甘いのね……」
ナイフが呆れたように呟く。

「……でも、すぐには出発しないよ。きちんとゴナンの体調をきちんと治して、きちんと準備をして、きちんと体勢も整えて。場合によっては、きちんと護衛を雇うことだってきちんと検討したいからね、きちんと!」

「ええ、分かってるわ。ありがとう、リカルド。わたくし、何でもやるわ。準備に必要なこと、何でもおっしゃって!」

 ミリアの表情がぱっと輝く。「わたくし、部屋で自分の荷物のチェックをしてくる」と、嬉しそうな足音を立てながら2階の部屋へと戻っていった。今にも旅に飛び出していきそうな勢いだ。その後ろ姿を、複雑な面持ちで見つめるリカルドだったが、その場に残ったエレーネに声をかけた。

「……そういうわけで、自動的に君も同行することが決まったように思うけど、問題はないかな? エレーネ」

「ええ、もともと、その予定でここに引っ張ってこられているのだから。それに、私の“道楽”にとっても願ったり叶ったりよ、“博士”」

博士、にアクセントを置いて、ふふっと笑う。そうしてエレーネは、隣にいるゴナンに話しかけた。

「そういうわけだから、改めてよろしくね、ゴナン」
「……あ、はい……」

ゴナンはおずおずとした表情になって、上目遣いでエレーネを見ながら、言葉少なに応える。ゴナンのその反応を不思議に思っていたら、ゴナンはリカルドに小声で尋ねてきた。

「…あの……、前から気になってたんだけど。この人、誰?」
「……! あっ、そうか! そうだったね、勝手に決めてごめん、ゴナン」

そういえば、これまで寝込んでいたゴナンはエレーネとほとんど絡みがなかったのだ。リカルドは手早く、エレーネのことを紹介する。

「カーユの材料を教えてくれたのは彼女なんだよ」
「それは…、ありがとう、ございました……」

どうにもエレーネ相手に、ゴナンが言葉少なモードになっている。エレーネもそれを感じたのか、優しくゴナンに微笑みかける。

「私も一緒に行って構わないかしら?」
「……はい……。大丈夫、です……」

ゴナンは変わらず、言葉少なだ。少し体をリカルドに隠し気味に寄せている。あれ?ゴナンは人見知りだったかな、とリカルドが不思議に思っていたら、ナイフがくすっと笑った。

「ゴナンも、キレイなお姉さんには緊張するのね」
「あ、ああ…、そういうこと……」

そのくらい気付きなさいよ、とナイフが呆れたようにリカルドを見ていた。

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