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連載小説「オボステルラ」 【第二章】47話「リカルドの人生」(1)


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第二章の登場人物



リカルドの人生



 翌日、リカルドが目を覚ますと、ベッドにゴナンがいない。あれ?と部屋を見回すと、すでに着替えを済ませたゴナンが、何やら荷物をゴソゴソとしていた。

「おはよう、ゴナン。早いね」
「リカルド、体、平気?」

ゴナンは昨日のことを心配していた。

「ああ、言ったろ? もう、全然大丈夫なんだよ」
「だったら……」

ゴナンは、珍しく少しむすっとした表情を見せて、リカルドに詰め寄る。

「……剣……」

「……!」

「もう、いい加減、剣、見に、行きたい……」

「ああ!そうだね。うん、行こう。すぐ行こう。ふふっ」

 思わず笑ってしまったが、ゴナンは真剣な表情である。結局、1週間以上お預けになってしまっていたのだ。普段、本当に欲がないゴナンが珍しく執着している。そのことがリカルドは妙に嬉しくて、急いでベッドから出て身支度を始めた。朝ご飯も食べず、2人していそいそと階段を降りる。

「おはよう、あら、どこ行くの?」

 店のカウンター内から、ナイフが声をかけた。いつもの習慣で店に出てきてはいるが、とはいえ営業できないため、完全にオフモードで化粧もしていないし、何なら寝間着のままだ。完全に気が抜けている。

「おはよう、ナイフちゃん。武器屋に行ってくる!」

 ゴナンが、いつになくテンションの高い声で、ナイフに報告する。その後をニコニコ顔で着いていくリカルド。ようやく元気なゴナンが戻ってきて、ナイフもほっとした表情で二人を見送っていた。

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 さて、いよいよゴナン念願の武器屋である。

 リカルドも自身の剣を持ってきて、メンテナンスを依頼している。ゴナンは、表情はあまり変わらないものの、目を輝かせて、店内のいろんな武器を見て回っている。珍しい武器があると、「これは何?」「これはどうやって使うの?」と店員に次々質問。もう、限りなく、男の子である。

「ゴナン、どれでも好きなのを選んでね。買ってあげるから。予算なんて気にしないで。ほら、この大きな剣がいいんじゃない? 柄の意匠もかっこいいよ」

「だから、大きいのや重いのは、俺、扱えないよ。飾りのかっこよさは強さには関係ないし。それにリカルド、すぐ高いものを買おうとするけど、ちゃんと節約した方がいいよ」

意外に冷静な目線でリカルドに応えるゴナン。武器屋の店主は、がはは、と笑う。

「おいおい、リカルドさん、言われちまってるよ。あんたは無駄に高級志向だから、俺にとってはいいカ…、いいお客さんなんだけどな」

「あれっ、今、カモって言いかけなかった?」

「坊主、なかなかいい心根を持ってるな。お前さんにちょうどいい剣をしっかり選んでやるからよ」

 そういって店主は、ゴナンの身長や手足の長さを測り、腕や背中や腰回りを触って筋肉の具合などを調べている。

「…うーん、ずいぶん細っこいなあ…。これから鍛える感じか?」
「うん…。俺、弱いから、たくさん鍛えて、体を大きくしたい」
「そうか…。すぐに、何か危険な現場に出るわけではないんだな?」
その店主の言葉にゴナンはコクンと頷く。それを確認して、店主は陳列してある剣のうち、ゴナンの体格に合う長さの2本を選んで持ってきた。

「いまのお前さんの腕力だと、この軽い剣がちょうどいいはずだ。速い攻撃もしやすいから、身軽そうな坊主にも合っているだろう。ただ、威力もそれなりだし、防御するときにどうしても弱くなっちまう」

そういって渡された軽い剣を振ってみる。確かに、ゴナンにも難なく振ることができる。

「こっちの少し重い剣だと、今はまだ扱いが難しいかもしれないが、力が付いて扱えるようになれば威力も増すし防御もしやすくなる。鋼も少し丈夫なものだしな。自分だけじゃなくて、誰かを守る際なんかは、特にいいだろうな。ただ、自在に扱えるようになるには、坊主の場合は少し時間がかかるかもしれない」

「……」

重い方の剣を手に取って、素振りをしてみる。確かに、扱いきれず体が振られよろけてしまった。ゴナンは戸惑って、リカルドの方を見る。リカルドはニッコリ微笑んだ。

「どっちでもいいよ。すぐに戦場に行くというわけではないんだから。ゴナンが、自分に必要だと思うものを選んで。何なら両方買ったっていいんだけど」

「両方はいらないよ。一度に振れる剣は、1本だけだよ」

リカルドをたしなめるように答えるゴナン。リカルドは肩をすくめて、店主と目を合わせて笑う。

「……」

ゴナンは、2本の剣を持ち比べ、見比べる。

「……速く攻撃できるのより、ちゃんと守れるやつの方がいい…。こっちの重い方にする」

そう言って、重い方の剣の刃をじっと見つめた。その鈍い光に、ゴナンは少しぞくりとする。



(…ゴナンらしい選び方だな……)

リカルドはそう感じて微笑んだ。店主もニコニコ顔で、ゴナンの頭をクシャクシャと撫でる。

「そうか、そうだな。今からどんどん鍛錬して、体を大きくしなきゃあな。頑張れよ。飯をいっぱい食えよ、肉もな。坊主は、手や足は大きいし、骨格の感じを見ても、もっと身長は伸びると思うぞ」

「え、本当…!」

「お兄さん達もみんな身長が大きいからね。お母さんのユーイさんも女性にしては背が高めだったから、きっと伸びるよ。ご飯、いっぱい食べさせてあげるから」

リカルドが付け加え、さらにゴナンの目が輝く。

「剣を吊るベルトはいいのを買ってあげる。なるべく、身に付けるときに軽く感じられるものがいいから。鞘も軽量で丈夫でいいやつ。これは譲らないからね」

安いのでいい、と言いそうになったゴナンの口を制して、リカルドはベルトと鞘を探し始める。店主は、ゴナンが選んだ剣を仕上げに研ぎ始めた。

「もっと体が大きくなって力も強くなったら、あの最高ランクでカッコいい飾りがついた長剣でもリカルドさんに買ってもらいな。それまでは、こいつがお前の相棒だ」

武器屋の親父がニッコリ笑いながら、ゴナンの腰に剣を着けてくれる。

(剣。俺の、剣……)

高揚感と、少しの恐ろしさとが、ゴナンの脳を刺激していた。


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