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連載小説「オボステルラ」 3話「“お屋敷”へ」


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登場人物

※仮題「その鳥と卵」から、正式タイトルに改めました

3話 “お屋敷”へ


 ふっと目を開けると、見知らぬ男性が、黒曜石のような瞳でゴナンの顔をのぞき込んでいた。いや、知っている顔。昨日出会った男性だ。

「おはよう、ゴナン」

 いつもとは違う目覚めに、ゴナンは飛び起き、ハンモックから転げ落ちてしまった。もうすっかり日が高い。もしかしたらゴナンがこのまま目覚めないのではないかと、リカルドは心配していたのだった。

「リカルド…さん。まだ、うちにいたんだ」

「お兄さん達と話が弾んでね。そのままそこで、テントを張らせてもらったよ」


 ゴナンのハンモックのすぐそばに、幕を棒で器用に張った簡単なテント。昨日も水やら食料やらを取り出していたが、あのバックパックには、果たしてどれだけ荷物が入っているのだろうか。

「あ…、おはようございます」

 朝のあいさつを返し忘れていたことに気づき、ゴナンは小声で続けた。リカルドの表情が緩む。

「これ、朝ご飯だって。ミィちゃんに食べられそうだったから、隠しておいたよ」

「ミィ、そんなことしない!」

 昨日、リカルドが持ち込んだ食材で母が作ったパンのようなものが差し出される。朝ご飯、という言葉を聞くのも久しぶりだ。ミィはリカルドにまとわりつき、そしてパンをその手から奪ってゴナンに差し出した。すっかりリカルドに懐いている。

「ミィはもう食べた! はい、ゴナン兄、どうぞ」




 お腹が満たされているからか、食べ物を兄にあげられることが嬉しいのか、ミィがいつもより元気だ。それでも、一般の10歳よりは幼く見える。細身なのにおなかがぽっこり出てしまっているのは、栄養が足りていないせい。ゴナンは無言でミィの頭を撫でてパンを受け取り、「いただきます」と小さく言って食べ始めた。そのまま無言で食べ続けるゴナンに退屈し、ミィは母の元へと行ってしまった。

「ゴナン、起きたか。体は大丈夫か?」

入れ替わりにアドルフがやって来た。

「うん」

アドルフはゴナンに顔を近づけて顔色を見る。そして、その言葉が嘘でないと安心したようだった。

「水汲みは俺だけでいくから、今日は休んでな」

「大丈夫だよ、リカルドさんに食べ物もらったし」

「昨日注いできた水がまだ保つから、1人で十分だよ。気にするなって」

そしてリカルドを見て、ああ、と思い立つ。

「元気があるなら、リカルドさんをお屋敷様の家に案内してあげな。兄貴達はもう出かけてしまったから」

ゴナンはちょっと渋い顔をした。あの格調高い風の老人とは、そんなに話したこともないが、あまり好きではない。が、仕方がない。

「アドルフさん、申し訳ない。助かります」

頭を下げるリカルドに笑顔で応えて、アドルフは自身の出かける準備を始めた。

ゴナンはふぅ、と息をつくと、また無言でパンの残りを食べ始めた。何か面白いのか、リカルドはその様子をじっと見守っている。しばし緩やかな空気が流れた。

+++++++++++

 「そろそろ、行こうか」

 土色のバンダナを巻き、ゴナンは立ち上がった。リカルドもテントからいくつかの荷物を取り出してショルダーバックに入れ、準備をする。お屋敷様の家はここから歩いて20分程の場所。歩き始めると、ゴナンは昨日よりも足が軽いように感じた。そういえば、いつもの意識を失うような睡眠ではなく、普通によく眠れたような気もする。

「ちょっと元気になったかな?」

リカルドも気付いたようだ。

「やっぱり食べ物かな。キレイな水もいっぱい飲んだし」

「うんうん、ごはんも水も大事だね、本当に」

「兄貴達は大人だし、まあまあ元気だけど、ミィは最近、元気なかったから、よかったよ。助かった」

 自分が一番、元気がなかったはずなのだが、当の本人は妹を心配していた。リカルドは、そんなゴナンを見て、いくつかの質問をした。

「ゴナンは、好きな食べ物はある?」

「うーん…。あんまり…。嫌いなものもないけど」

「普段はどんなことをして遊んでたの?」

「うーん。何してたかな…。晩ごはん用のウサギを捕りに行ったり、ミィの面倒をみたり…?」

「大人になったらやりたいことはある?」

「特に…。この村で暮らしていくだけだし。兄貴達くらい体が大きくなれば、もっと畑仕事の役には立つけどなあ」

 リカルドが立て続けに尋ねて、ゴナンも答える。少年にとっては精一杯の回答なのだが、

(昨日もちょっと思ったけど、妙にあっさりしているというか、欲がないんだな…)

とリカルドは興味深く感じていた。干ばつの影響で体力も気力も減ってしまっているからかもしれないが、どちらかというと生来の気質だろう。まあ、あのアクの強そうな兄達4人の下で育てば、こうなるのかもしれない。

「面白いね」

「え、何が?」

 その反応にリカルドはまた、クスクス笑った。こうやってとりとめもなく話している内に、あっというまに屋敷に着いた。

 外界を拒むかのような高い土塀に囲まれた、大きな屋敷。外から中の様子は見えない。塀を伝って歩いて行くと、門が見えてきた。木の扉で固く閉ざされている。

「入口はここだよ。じゃあ」

ゴナンは立ち去ろうとしたが、リカルドは引き留めた。

「せっかくだから、一緒に入ろう。何かいいことがあるかもしれないよ」

いたずらっぽく笑うリカルドに、ゴナンは苦い顔。ただ、足を踏み入れたことがない屋敷の内側に、少しだけ好奇心が頭をもたげた。

「俺はいるだけで、何もしゃべれないよ」

「大丈夫、それでいいから」

そうしてリカルドは、よく通る声で扉に向かって声をかけた。

「すみません! ユートリア卿を訪ねて参りました、リカルド=シーランスと申します。アポトルト伯からご紹介いただいて、参りました」

ーーー少しの間の後、扉がギィィっと重く開いた。

「アポトルト様からお手紙で伺っています、どうぞ」

門番らしき壮年の男性が、どうぞと招き入れた。リカルドに続きゴナンも入ろうとすると、召使いはピクリ、と目を遣る。

「ああ、私は今、彼の家にお世話になっているんです。ここの村の人間です。同行させても?」

「ーー問題ありません」

少し釈然としない表情だったが、口元だけニコリと笑顔を作って、男性はゴナンも奥へと招いた。

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 「やあやあ、リカルド殿。ようこそ、こんな所ですが!」

 通された応接間。土壁とレンガで堅牢に作られた屋敷は、ゴナン達が住む小屋と同じ地域にあるのが信じられないほどの豪華さだった。部屋の中はクロスや装飾で飾られており、何やら豪華な意匠が施された木のソファに2人は腰掛けていた。そこへ、ぷっくり小太りの老人が入ってきた。

「初めまして。リカルド=シーランスです。この度は大変な時に、お伺いしてしまい恐縮です」

ぺこりと頭を下げたリカルドのあいさつに、ユートリアは最初は何のことかがわからない様子だった。しかし、ゴナンの姿を見てはっと気付く。

「いやあ、まさか、このように長く雨が降らなくなるとは。私もここに住んで長いのですが、こんなことは初めてなのですよ」

「井戸は無事だとか。ユートリア卿はお元気そうで何よりです」

にこりとリカルド。少し含みを持たせたような笑みに、となりでゴナンは少しだけ怖気を感じる。

気付いてか気付かないか分からないが、老人は早速、本題へと入った。

「こちらへは研究で来られたのでしたな?」

「はい、私は鳥の伝承の研究をしていまして、この地域で鳥が見かけられたとの情報をえたのです。卿は見られましたか?」

「1年前のことですな。村の者たちはそう言っていましたが、うちの家のもので見た者はいないようで」

老人は、ポリポリと頬をかく。

「しかし、鳥を見ていないわが家の井戸は涸れず、村の泉は枯れてしまったとなると、ただのおとぎ話とは言えないかもしれませんな」

 そしてははは、と笑う。部屋の隅に控えている召使いもはははと笑ったが、客人2人はニコリともしなかった。世間話にしては、あまりにも無神経である。

「…その、リカルド殿は、鳥と不幸の因果関係を調べているのではないのですか?」

「ああ、私の研究対象はそのようなことではないんですよ。私も、鳥や卵の伝承はただのおとぎ話だと思っているクチで」

えっ?とゴナンはリカルドを見た。昨日の話は何だったのだろうか?

「ただ、この世界のどこに行っても、必ず鳥と卵の伝承が残っているんですよ。そして内容もほとんど同じです。いろんな国を旅していますが、それぞれ多彩な文化や宗教があるのに、鳥の話だけは同じ。そして鳥は実在するらしい。これがどうにも不思議で。そう思いませんか?」

「あ、ああ、そうですな」

老人は汗を拭く。ゴナンはじっとリカルドを見つめていた。いろんな国、文化、宗教…。アドルフから教えてもらって知識としては知っているが、隣に座るこの人物が、そんな世界を渡り歩いている者だと感じると、目映い。

「この北の村の話を聞いて、そこを治めている方がいると聞いたので、研究のために滞在する許可をいただければとお伺いした次第なのですが…」

「あ、ああ、なるほどですな」

老人はゴナンをチラリと見て、また汗を拭く。

「治めるなんて大仰なものではないのですよ。私はしがない老人です」

「ああ、王国でのお仕事を退かれたと、アポトルト伯を紹介いただいたエーラン伯からもお聞きしています」

老人がニコリと、堅い微笑みを浮かべる。次々と知らない名前が出てくるので、ゴナンは理解が追いつかない。

「エーラン伯…」

「ユートリア卿は新しい土地でも、現役の頃さながらに慈悲深い統治を行っているのではないか、きっと良い村に違いない、なんて話をされていましたよ」

今度はリカルドが、ははは、と笑った。老人もニコリと愛想笑いをする。

「まあ、その話は…。滞在は問題ないと思いますよ。そもそも私には何の権限もないですから。うちにおられる間は不自由がないよう、もてなさせていただきますよ」

「それはありがたい」

ニコリ、と悪い笑顔。

「ただ、私は鳥を見た人たちの話を聞きたいのです、でもこの屋敷には見た者がいないという…」

 そして、ゴナンの肩をぽんと叩き、白々しくも哀しそうな顔をする。

「このゴナンくんも、鳥を見たそうですよ。だからなのか、兄弟の中で1人だけ、こんなに痩せ細ってしまって…。彼の様子を観察したいので、彼の家に滞在しようと思います」

「ええと、君は…?」

「俺は、東の外れにあるユーイの家の、五番目の子どもです」

「ああ、ユーイさんとこの…。アドルフ君の弟か」

老人がなけなしの自尊心を保つため、何か小難しい話をするときに、お屋敷様の相手をよくしているのがアドルフだ。

「アポトルト伯にも、エーラン伯にも、ああ、王国に友人も多いので、村での卿の暮らしぶりをしっかりお伝えしておこうかな…」

「ええと、そうか。まあ、そういうことなら、不都合ないようにしておこう。ね」

 そう言って、大人同士はにっこりを笑顔を交わしあった。どういうことになったのか、ゴナンにはよく判らなかったが…。

「ああ、そろそろお昼の時間だな。せめて昼食くらいはご馳走させてください、準備を申しつけてきます」

そういって老人は、ふとましい体を驚くほどの俊敏さで動かし、部屋の外へと消えていった。

+++++++++

 その後、妙に大仰なもてなしにより、ゴナンは数ヵ月ぶりに「満腹」の幸福感を感じていた。

「ね、いいこと、あっただろう?」

屋敷を出て、リカルドはゴナンにニッコリほほえんだ。

塀の中は、まったく違う世界だった。見たことのない食べ物にも驚いた。何かの丸い、果物。スプーンですくって食べると、今まで感じたことがない甘さ。白いクリームが乗ったフワフワのパンのようなものは、さらに脳が燃え上がりそうなほどの甘さ。ゴナンは夢中で食べてしまっていた。

 少しばつの悪い表情で「ミィや母さんや、兄貴達にも食べさせたいな…」と申し訳なさそうに呟やくゴナン。こんなにも豪華な食事を隠し持っている、この塀の奥の引きこもりに、初めて怒りのような感情も覚えていた。

「ああ、それは大丈夫だから」

「どういうこと? 大体、さっきのお屋敷様との話といい、俺には何がなんだか…」

「おいおい説明するよ。それより、ちょっと村の様子を見て回りたいんだけど、付き合ってくれるかな?」

 リカルドはどこか上機嫌に見える。穏やかで優しいお兄さんという第一印象を持っていたが、ちょっと悪い大人なのかもしれない、と少し警戒するゴナン。彼の返事を聞かず、リカルドは黒髪を揺らして、村の中心地の方へと歩みを進めた。

++++++++

 「ここが、泉だね」

 10分程歩いて着いた、村の中心部。直径30メートルほどの大きな窪地が拓けている。かつては美しい水に青々とした緑が茂る、風光明媚な場所だった。しかし今は何の少しの湿り気もなく、周辺に生えていた木々や草も枯れ果て朽ちていた。泉から引いてある水路も使われていないせいで囲いが壊れ土が埋まり、元の形状を留めていない。

 周辺に6~7軒ほどの家が見える。どこもゴナンの家と同じように、柱に木の板や土壁で適当に囲った簡易的なものばかりだ。出歩く人の影もなく、静か。日が差す音さえ聞こえてきそうなほどに。

「ちょっと降りてくるね」

 そう言って、リカルドは黒いマントを脱いでゴナンに預けた。マントの下も黒い長袖の衣を着ている。暑そうだ、とゴナンが眉をひそめて見ていると、「冷え性でね」とニコリと笑うリカルド。

そのまま、ザザッと窪地を滑り降りた。水底だった場所を少し掘ったり、砂の質を見たり、周囲をキョロキョロ見たりと、学者然とした振る舞いでいろいろ調べている。ゴナンは地面に腰掛けて、その様子を眺めていた。

「うーん、地下からの湧水か…。水路が途絶えてしまっているのかな。水源から涸れているのか…。昨日の川の上流があちらのほうだから…」

少し動くだけでも、猛烈な暑さが襲ってくる。日陰も逃げ場もないこの場所で、くらりと視界が揺れる。暑さのせいではない。

(おっとこれは…)

 しばし膝に手をついてこらえ、リカルドは無理せず引き上げることにした。窪地を登ると、同行者の姿はほとりにある枯れ木の所に。今にも倒れそうな朽ち木に背中を預け、ゴナンはウトウトと眠っていたのだ。

 随分久しぶりに満腹になったあとだ、しかも、きっと生まれて初めて食べた甘味もたくさんあったのだろう。仕方が無い。なんとも無邪気な寝顔に15歳らしい健やかさを感じて、リカルドの顔がほころぶ。

「ふふ、寝る子は育つからね。ごゆっくり」


 そのとき、リカルドは背後に別の人影を感じた。近所に住む村人だろうか? 若い夫婦が、見慣れない人物に警戒しながら近づいてきていた。リカルドは怪しまれないよう、スッと頭を下げて、すぐに自己紹介をする。

「すみません、私は旅の者です。研究でこちらに立ち寄っていて、あの子に案内をしてもらっていたところです。疲れたようで、ちょっと休憩中ですが」

「ああ、ユーイさんのところに…。あそこの家は、昔から客人が多いんだ。でも、こんなんなっちまってからは、久々だけどなあ」

 何者かがわかると少し態度がほぐれたようだ。意外に外の人間に対する警戒は薄そうだ。じきに、様子をうかがっていたのか、他の家からも人が出てきた。みな痩せ細っているが、基本的には好奇心が強い人たちのようだ。日に焼けた浅黒い肌に瞳を少しだけ輝かせながら集まってくる。

「ここは、大きな鳥が来たようですね」

 世間話のような雰囲気でリカルドは切り出すと、村人達は「そうなんだよ」と口々に話し始めた。

「あの鳥さえ来なければ、こんなことにはならなかったのに…、うちのじいさんも死んでしまった…」

「もうこの村は終わりなのか…、学者さんには分かりますか?」

「あの鳥は卵を産むんですか? 卵で雨を降らせてくれるのかなあ」

「お屋敷様は鳥を見ていないと言っていた、だからお屋敷は無事だったんだろうか」

「あの…」

お屋敷様の名前が出て、リカルドは気になっていたことを尋ねた。

「お屋敷様のところには水があるのに、不公平だと感じて居ないのですか? 彼はここの主というわけではないんですよね? みなさんはこうやって助け合っているのに…」

村人達は、きょとんとする。

「でも、もし私たちが井戸の水を使うせいで井戸が枯れてしまうことになったら」

「食べ物を持っていけば、水と交換してくれるんですよ。不公平ではないです」

「鳥のせいなのに、その怒りの矛先をお屋敷様に向けるのは、筋違いですよ」

リカルドを囲む、善良な瞳。「アドルフが言っていたのは、このことか…」と理解した。統治も政治もないこの村。素朴すぎる暮らしの中で、『お屋敷』という少しだけ特異な「特別な何か」がある、そのことが、村の在り方に奇妙なバランスをもたらしているのだろう。ただし、いつ壊れるともしれない、危ういものだ。

(あの老人はただ、自分の居場所を作っただけなのに)

 優しげに話す旅人に村人は心を開き始め、今どんな暮らしをしているのか、ここがどんな村だったかを教えてくれた。東の外れに住むユーイの子ども達が、この村で頼もしく思われている存在であることも。

「今だって、見つけた食材や、川で注いできた水なんかを少しでもって分けてくれたりもするんだよ」

「川の水も減ってきているんだよ」

「あそこは男手が多いとはいえ、こんなに大変なときなのになあ」

「でも、そこのゴナンは、最近ちょっと心配だね、弱っている」

「うちの子も、先月死んでしまったのさ」

「ミーヤさんのところも…」

「あそこの家は家族みんな死んでしまった。家の木材をもらって、私たちの家の補修に使わせてもらっているよ。もうこのあたりでは、木も採れないから」

「ここでは死者は火葬で送っていたけど、燃やすための木材もないから、最近は土葬で弔っているんだよ」

 とりとめも無く話が出てくる。リカルドが村の何かを知りたがっていると知って、つらい話も多いのに、少しでもたくさんの情報を教えてくれようとしているようだ。その善良な厚意が、とてもありがたかった。リカルドにとっては、お屋敷で過ごした時間の何倍も有意義なひととき。その間にゴナンは横になってしまい、リカルドのマントを胸元に抱いたままスヤスヤと眠り続けている。これまで叶わなかった栄養を蓄え、少しでも成長を取り戻そうとしているかのようだ。

 皆で地面に腰掛け輪になり、1時間ほどしゃべっただろうか。

「あ、もしかしたらそろそろ家の方に届いているかも…?」とリカルドは、この会の終了を告げた。この日差しの中でゴナンをいつまでも放置するのも良くない。起こそうと肩を揺すってみたが、「ううん…」と唸るだけで起きる気配はなかった。

「ふふ、仕方ないな…」

 リカルドはマントを羽織ると、村人に手伝ってもらいながら、よいしょっとゴナンをうまく背負った。15歳の少年の体は、あまりにも軽かった。まだまだ起きる気配はない。村人達に別れを告げ、なるべく衝撃を背中に加えないよう慎重に歩いて行く。

 全身をくったりとリカルドの背に預けたゴナンから、耳元に届くスースーという寝息。なんの遠慮もなく委ねられた重みが、心地よく、愛おしかった。


↓次回の話


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