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連載小説「オボステルラ」 【第二章】42話「仲間達に」(2)


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第二章の登場人物



「リカルドは、だいぶミリアの扱い方を心得てきているようね」

ソファに座ったエレーネは、自分のグラスに赤色の果実酒・フラン酒を注ぎながら、くすっと笑った。なかなか強い酒のはずだが、氷も入れずにぐっと飲んでいる。

「まあ、王女であるっていう点を考えなければ、ある意味、分かりやすい子ではあるからね…」

「本当に旅に連れて行くの?」

「いや、無理だろう…。前にも言ったけど、僕には荷が重すぎる…。ここに足止めしてしまってエレーネには申し訳ないけど」

リカルドは天を仰ぐ。かといって放置するわけにもいかないし、城に戻るよう説得するのはかなり骨が折れそうだ。できれば強硬な手段は使いたくないが…。

「エレーネ。僕は心の奥底では、ミリアを君に押しつけて逃げてしまいたいと思っているんだけど」
「……とても正直な告白、ありがとう。でも流石に私1人では、荷が重いわ…」
「そうだよね…。ま、酒の席で話すことでもないから、おいおい考えるか」

後回しにすることにして、リカルドは次の杯を注いだ。

「それにしても、卵の伝承が、急に現実味を帯びてきたのでないの?」
ナイフが、少し酔いが回った目でリカルドに微笑んだ。
「旅を始めてこの9年間、何にも、何にも、本当になーんにも、進展がなかったのにね」
「9年…。いや、もっと長いよ。僕が物心ついてからずっと、追い続けてきたことだから……」

ふう、とため息をつくリカルド。

「あの帝国の男達も、ヒマワリちゃんも、巨大鳥と卵について何か詳しく知っている風だった。僕はいろんな国を回ってきたけど、今までそんな人に出会ったこともなかったのに」

「そもそも今までは、実在するかどうかも怪しいレベルだったじゃない」

ナイフのその言葉に、さらに深いため息をつくリカルド。

「…そうなんだよ……。なのに、急にあんな奴等が現れて、物知り顔で騒動起こして去っていって、僕は何も分からず取り残されたまま…。僕のこの9年間の研究って何だったんだろうって、むなしく感じるよね」

そう言うと、リカルドはエレーネの方を見て、自嘲気味に笑った。

「エレーネ、君がわざわざ書き写して大事に持ってくれていた僕の論文も、ただの紙くずに過ぎないようだよ」
「そんなことないでしょう?」
エレーネはフラン酒をあおって微笑む。もう2杯目、ペースが早い。

「あなたの論文で気にかかっていることがあるんだけど…」
「え、何、何? 何でも聞いて」




先ほどの自嘲じみた態度はどこへやら、嬉しそうに顔を近づけるリカルド。ナイフはくすっと笑う。

「え…、ええ。卵の伝承のほうなんだけど『卵を得た者は、幸せになれる』というものよね。これは『願い事を叶える』ということと同義なのかしら」

「ああ…そうだね……。文言としては『幸せになれる』という曖昧な表現が使われているけど、その言葉を口にする人たちは『願いを叶える』というニュアンスで捉えている、そういう場合が多いね。西方の国に卵を崇拝する宗教があるんだけど、そこなんかはその典型。ただし、人々がそう思いたがっているだけだという可能性もある」

「…やはり、そうよね。そして、あなたも『願いを叶える』であってほしいと思って、卵を追っている、そうよね……」

「うん、それは、そうだね」

少し伏し目になって答えるリカルド。ナイフはふと思い出す。

「……ロベリアちゃんも、あの帝国の男達も『願いを叶える』的なことを口にしていたわよね。帝国では、願いが叶うアイテムとして知れ渡っているってことなんじゃないの?」

「そうなんだよね。でも、僕はあちらの国でそんな話は聞いたことがないんだよなあ。あとは、彼らが、卵が割れることにすごく動揺していたのも、気にかかるね」

リカルドは一口、キィ酒を口に含んだ。

「卵を、割る……」

エレーネは少し思い出すような素振りを見せる。

「…あなたの論文で読んだ気がする。ごく一部の地域だけど、『卵を得たもの』ではなく『卵を割ったものが幸せになれる』と伝わる地域があるって。それが帝国の一部と、東側のコビナ衆国の一部ではなかったかしら」

「…あ、そうだね。そうだった。大体、『卵を得たもの』っていう表現も曖昧なんだよね…。もしかしたら、願いを叶える方法、というか儀式的なものが、『卵を割る』ことだという可能性も、あるかもしれない」

「……あまり、割りたいものではないけれども、大きな卵なんて……」

エレーネは嘆息して、そう言った。確かにね…、とリカルドは笑う。

「なんにせよ、せめてヒマワリちゃんに話を聞ければなあ…。もう二度と会うことはないって言われたけど」

リカルドはソファにもたれかかり、天を仰いだ。ナイフはまた自分の盃に酒を注ぎながら、ふふ、っと笑う。

「……大体、そういうことを言う人とは腐れ縁になるのが、世の常よ。きっとまたどこかで遭遇するわよ」

「遭遇、ね…。できれば、友好的に遭遇したいものだな。もう足蹴にされるのは、御免被りたいよ」

↓次の話





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