連載小説「オボステルラ」 【第三章】2話「ツマルタの街にて」(3)
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2話 ツマルタの街にて(3)
夜。
ナイフ達3人が取った宿の近くの食堂で、一行は晩ごはんを食べている。
職人が多く住むこの街では、食堂のメニューもガッツリ飯ばかりだ。ゴナンは目を輝かせてモグモグと食べているが、ミリアなどはすぐにお腹いっぱいになってしまっているようだ。
ナイフはゴナンに、少し微笑みながら声をかける。
「ゴナン、また牛乳をお代わりしているの? あまり飲み過ぎると、お腹下すわよ」
「うん、でも…。野営のときは飲めないから…」
ゴナンは手にしたグラスをギュッと握る。飲むと背が伸びる、とナイフに教わって以来、チャンスがあれば牛乳ばかり飲んでいるのだ。
「僕の拠点には氷室がないから、牛の乳を買っても保管できないもんなあ…」
リカルドはクスクス笑いながら、ゴナンの頭を撫でた。
「でも、体を大きくするには、いろんなものをバランス良く食べるのも大事だよ」
「うん」
ゴナンは素直に頷く。しかし、すぐにトイレに立ってしまった。水分の取りすぎだろう。
「わたくしも牛の乳、飲もうかしら。わたくしも背を伸ばしたいわ」
ミリアは背筋をしゃんと伸ばして、エレーネの方を見た。
「エレーネくらいの身長があれば、ドレスを着ても映えるのに…」
「ミリアもまだまだ伸びるよ、きっと。お兄さんも背が高いんだろう?」
リカルドは微笑んでそう慰めた。兄とは、この国の王子・アーロンのことである。
「…ええ…。お兄様もお父様も背はそこそこ高いけれど、お母様はとても小さいの」
そう答えるが、やはりまたミリアの表情は暗くなる。家族の話を聞くと、いつもこうなる。その理由はリカルドにはうかがい知れないが、以前、王族の話を深掘りし聞きすぎて痛い目に遭っているため、あえてそれ以上は触れない。
「女性で背が高くても、良いことばかりでもないわよ。私は、自分に合うサイズの服を探すのが大変だし」
エレーネもミリアを慰めるように、そう続けた。エレーネの身長は170cmあり、女性としては高い方だ。
「ま、無い物ねだりだよ。ミリア、牛乳は栄養もたくさん入ってるから、飲むにこしたことはないよ。注文しようか」
リカルドは笑顔でウエイターを呼ぼうとお店を見渡した。ちょうどゴナンがトイレから戻ってきている。が、途中で男性とぶつかった。
「…あ、ごめんなさい…」
「いや、こちらこそ失礼…。ん?」
と、その男性はゴナンの進行方向にいるリカルドに目を留めた。
「…あれ、もしかして、リカルドじゃないか、久しぶりだなあ」
「……!」
50代半ばに見えるその男性は、にこやかにリカルドに声をかけて来た。
しかしリカルドの表情は一瞬、ピリッと引きつった。その後、いつもの、というよりいつも以上に怜悧な微笑みを浮かべる。立ち上がって、挨拶をするリカルド。
「…ポールさん。お久しぶりです。よく、僕だと、わかりましたね」
「会うのは子どもの頃以来だからな。一瞬、どうかなと思ったけど。お前さん、お父さんにそっくりだから分かったよ。しかし随分、背が伸びて…」
ゴナンはリカルドの隣の席につきながら、その男性の言葉にピクリと反応した。ナイフの方を見ると、やはり少し厳しい表情になっている。
(子どもの頃以来…。お父さん…。このポールって人、リカルドの故郷のユー村の人…)
「…そうなんですか。僕は、生きている父には会ったことがないので」
押し殺したような冷たい口調で、リカルドはそう答える。ポールはさらに笑顔を作って声をかける。
「いやあ、お前さんは元気そうだな」
「ええ、“まだ”元気ですよ」
「…」
含みを持たせたような口調でリカルドは答える。その声音の冷たさに、ゴナンはぞくりと怖気を覚えた。
「あ…、ああ、そうか。それは何よりだよ」
「まあ、でもどうかな…。たまに体調を崩すときもあるし…」
「…」
「でも、こうやって旅して回れるほどには、元気です。同じ場所にずっといると、なぜか僕を追いかけてくる人もいるので」
「…」
ポールは笑顔を貼り付けたまま頷いているが、何かを聞きたげだ。しかし、リカルドのあまりにも冷たい口調に、次の言葉を発せずにいる。リカルドは微笑みを解いた。
「…もう、いいですか? 仲間と食事を楽しんでいるんです」
「仲間…」
ポールはそう口にして一行を見る。
「…ああ、邪魔して悪かったな。顔を見れて良かったよ」
そういってまた、満面の笑みを顔面に貼り付けて、ポールは自分の席へと去って行った。リカルドは席に再び座ると、無表情になって虚空を凝視している。そのただならぬ雰囲気に、一同は少し言葉を失った。
「…リカルド…」
ゴナンが隣で、心配そうな表情で声をかける。その言葉にリカルドはハッとして、またいつもの微笑で顔を覆った。
「…ああ、ごめんね」
「リカルドにしては珍しい対応ね」
事情を知らないエレーネが、不思議そうにリカルドに尋ねた。
「あ…、ああ。あまり会いたくない人だったものでね」
「そう…。いろいろ、大変ね」
エレーネはそれ以上は詮索してこない。ミリアも不思議そうにはしているが、そこまで気に留めてはいないようで、ウエイターを呼び止めて牛乳をオーダーしている。ナイフは、あえて気にしていない表情を作っていた。
「リカルド?」
ゴナンはもう一度、リカルドに声をかけた。その表情に、リカルドの微笑は少し和らいだ。
「…心配かけてごめんね。気にしないで」
「うん…」
↓次の話↓
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