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融点

だらしない夜は、どうして暑いのだろう。眺める先は遠く、前の大きな水たまりを軽々と飛び越えている。影が揺れてしまった、もう会えないのだろうか。

すべてのやる気をなくしてしまうような憂鬱の中で、好みを完璧に把握して案内してくれるのに、目の前に座ったらほとんど口を開かない。なにをはなしたかったの、仕事のはなし、新しい暮らしのはなし。

入れすぎたシロップを舌に余らせて、渋い顔を向けてくる。なんかいいなよ、って思いながらも可笑しくてわらってしまう。

その日もわたしは静寂を待っていた。声を出すことは、静寂に飛び込むことに等しかった。水溜りをいまだに超えられない。沈黙を守ればこの朝を永遠に繰り返せる気がして、わらったり、わらわなかったりすることの誠実さを守ることができる気がした。

悲しませたくない、それだけで保たれる理性がたくさんある。それほどには、大人になってしまったはずだ。待ち合わせですれ違ってしまった時に、気付くべきだった。

何度も夜を引き延ばした。物語の光に照らされて、まっすぐに見つめていられる横顔はあまりにも美しく。本当はずっと聞きたいのに、聞けていないことがある。

わたしの選んだ青が、きみにとってどんな朝だったのか。

読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。