認知症

セブンイレブンでコーヒーを買う。マシンにカップをセットし、アイスの濃いめをタッチ。

セブンカフェが始まってからというもの、缶コーヒーは全くと言って良いほど飲まなくなった。ジョージアもボスもがんばってるがやっぱり味も香りも挽きたて、淹れたてには敵わない。

抽出を待つ間、レジの方から大きな声が聞こえた。

「また何を買ってるの!?」
「これはキャンセルで!」

女性が年配の男性の買い物を阻止しようとしている。男性は困ったような顔をしているが女性はお構い無し。慣れた様子で店員さんにお弁当を3つ返すとそのまま2人で外へ出ていった。

どうやら女性は娘さんらしい。

失礼な言い方にはなるが娘といっても、もう既に「娘」ではないご年齢とお見受けする。

無理もない。

男性は恐らく70代後半から80代以上だ。そしてお父さんは認知症を発症され、娘さんがお世話をされているのだろう。

食べもしないたくさんのお弁当をレジへ持っていったのもその症状のひとつのようだ。たびたび同じことがあるから娘さんは「また」と言い、慣れた様子で対応されたのだろう。

大変だなあと感じると同時にいつか自分もああなってしまわないかと少し不安になる。不安になったところでどうしようもないのだけど、そう感じる自分のことが少しイヤにもなる。

そんなことを思ってたらマシンから出来上がりの音が聞こえた。カップにフタをして早く飲みたいのをガマンしながら外へ出る。9月といってもまだまだ暑い。特に今日は何だかすごく暑い。朝からまだコーヒーを飲んでないこともあって、出入口から車へ向かう駐車場を歩きながら一気に吸い込んだ。

車に乗り氷をガリガリしながらコンビニを後にする。ひとつ先の交差点にさっきの親子の姿が見えた。ふたりで何か話をしながら横断歩道を渡っていく。お父さんが娘さんの肩をポンポンっと叩き、笑顔で何やら言う。娘さんも嬉しそうにお父さんの手を取って笑っている。

なんだかとても幸せそうだ。もしかしたらお父さんは娘さんが一緒にいてくれることを喜んでおられるのかも知れない。例えいろいろなことができなくなったり分からなくなっても愛娘がいつも一緒にいることを心から喜んでる。

そんな笑顔だった。

3つ買ったお弁当は自分と奥さん、そして娘さんの分だったのかな。帰ってみんなで楽しい夕食にしようと思ったのかな。もしかしたら娘さんの大好きなおかずだったのかも知れないな。そう思いながら信号が青に変わった交差点を走り抜けた。

今日は早く帰ることにしよう。