短評:DV体験を乗り越えるためのセルフ認知療法的なエッセイ漫画 〜 「虐待父がようやく死んだ」 あらいぴろよ 著

「虐待父がようやく死んだ」あらいぴろよ、竹書房 / 2019年8月16日発売

筆者自身による、幼児期から成人するまでのDV体験をふりかえったエッセイ漫画である。

最近は機能不全家族の体験を描いたエッセイ漫画が増えている。DVや闘病体験なども含めたプライベートな体験をエッセイ漫画の題材として描くことは、90年代に内田春菊が漫画でカミングアウトして以来、ひとつのジャンルとなり、ほぼ当たり前のように確立している。

しかし自分のトラウマ体験を描くことはかなり難しく、下手をすると身を削るような場合もある。さまざまなやり方があり、たとえば内田春菊のように無頼派的に生きることで、自身のプライベートを切り売りしてゆく方向もあるし、田房永子のように自分の体験をもとに、他者の体験にも拡げてゆく方向もある。

本作はその面では、なかばセルフ認知療法的な自分語りを中心にしており、その分「毒」は薄い。そのため特にDV体験のない読者にとってもとっつきやすくなり、重くならずに気軽に読めることだろう。

しかし基本的なDV体験の部分は押さえている。さらっと描いてあるが、実際にはかなりシビアな状況であったと思われる。なので、同じようなDV体験があったり、現時点で困っている人にはピンと来るのではないか。筆者なりのたたかいと落としどころが描かれているので、参考になるだろう。

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