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半年寝かせてあの日を想う 〜noveljam 2018秋 生還録〜【その4】

著者/編集者/デザイナーが入り乱れて戦う2泊3日の小説ハッカソン「noveljam」での強烈な体験を経て、何もかもが変わりました。八王子で味わった天国と地獄、そこから見えてきたことを赤裸々にレポートします。第4回にて、ラストです。

本記事で取り扱う時系列
■二日目
22:00~ 会場閉店後、自室にて作業
■三日目
05:00 開場(印刷のため)
07:30 朝食
08:00 チェックポイント6(最終稿提出)
14:00 作品プレゼン
15:00 チーム紹介番組
17:00 審査発表・表彰・講評
18:00 閉会式
※ 一部省略しています。また、各工程すべてについて解説はしません

はじめに──呪いと化した反省にケリをつける

勢いのままに書きはじめ、ことあるごとに「こうする選択肢があった」「こういう判断ができただろう」とひたすら反省を繰り返してきた当レポート。しかしそのうち、何のために反省をしているのか分からなくなってきました。

内省の範疇を超えてまで、Web上に発信するような内容なの?という疑問も沸いてきました。

そんな中、以下の記事を偶然お見かけして。

大変だったプロジェクトの反省会みたいな振り返りとかで、うまくいかなかったことだけを並べて「反省しています!次からはそうならないように、これこれといった対応をしていきたいと思います。」みたいなのをたまに見る。そういうときに感じるのは「良かったところを知りたいなー」ってのと「そもそもその改善策って、実現可能なのかな?」ってこと。

         引用:そのふりかえりの改善策って実現可能なのかな?

こちらの記事を読んで、なんとなくモヤモヤさせっぱなしでいた違和感が氷解しました。それと同時に、反省という缶チューハイ(ALC.9%)でべろべろに酔っていた自分を、ぐっと引いて見ることができたような気がします。

或る大きな失敗があったとして、それに対して猛反省している間は「次はうまく行きそうな気がする」のです。
それは単に脳内麻薬のようなもので、結局のところ有効な対策とはなり得ないのではないでしょうか。その結果連発されてしまうのが、実現可能でない改善策なのかなと思っています。

グランプリ施策の件とかも思うところがあり、従来路線だとそこら辺も含めてぐだぐだ書き連ねる可能性がありました。しかしそういった心境の変化もあり、この第4回で終わりにしようと思いました。
さて、とは言ったものの無理やりポジティブに捉えるにも限界があり、とくに2日目夜~3日目昼は明らかな判断ミスが多発します。反省会ムードを抑え込めず恐縮ではありますが「編集者ってしっかり者のイメージだけど、こういう奴もおるんやな」ぐらいに見てもらえれば幸いです。

やらかしトレイン先頭車両の到来

2日目の晩は、日野さんの作品が調整を終えて最終段階にありました。澤さんサイドには、しつこく進捗管理するのも無粋だろうとあまり干渉せずにいました。しかし、これが後の分量調整に響く分水嶺となりました。あとは微調整とプレゼン準備だけだと見積もり、だいぶ呑気に構えていたと思います。

そして22:30ごろ、撤収勧告が。

パイプ椅子を大量に並べてプリンター、ゲラ置き場など大風呂敷を広げていたつきぬけ。しかしギリギリまで作業を切り詰め、焦ってドタバタ片付けるといういつものパターンに陥りました。私生活でも大体そんな有様【注1】ですので、ここ一番のタイミングでも平等にやらかしてしまうのは変わりません(たまには例外があってもいいじゃんと思いたくもなりますが……)。

その代償として、ノートパソコンを講堂に置き忘れる事案が発生します。
いったいそれなしで、部屋に帰って何をするつもりだったのかは不明です。一説では、あまりに当たり前すぎて逆に存在を忘れてしまっていたとか。このタイミングを皮切りに、色々とおかしくなりはじめました。あるひとつの綻びが発生すると、やっぱりどうしても連鎖してしまう。バタフライエフェクトじゃないけど。

レッドアウト

人は退っ引きならない追い込みがかかると、興奮物質が噴出するようにできています。しかし、視野狭窄も同時に引き起こします。その最たる例が、テスト前日にハイになるあの時間帯。レッドアウトというのは本来の意味【注2】からだいぶ抽象化した表現ですが、つまるところストッパー不在の錯乱状態でした。

そのエピソードを以下、2つほど。

紙でやってこそ編集だるるお?
デジタルトランスフォーメーションとやらに抗う姿勢を見せました。
とは言っても、パソコンを忘れたので勢いに任せて逆張りしただけです(ああ、背水の逆張りとは! なんてひどい字面)。
手元にプリントした原稿があったので、それに朱書きをして「Office Lens」なるスマホアプリで取り込んで送信。でも校正作業として一応カタチにはなっていたので、プレゼンで妙なことを思いつかなければ割とまだ何とかなっていたかも?

思いつきで一人芝居の練習@午前2時

①作品プレゼンで目立ちたい! 差別化したい!
②誰もまだやってないアプローチをさがす。紙芝居や音楽系、高橋メソッドは先駆者がいる……では演劇はどうか?
③帰りゃんせは怪談物語。オーディエンスをビビらすことができれば興味を引けるかも?

そして、

という(謎の)ノリになり、同部屋の西河さんに一言告げて外出。

午前2:00、大学セミナーハウス敷地内にある石畳の空間で口をマフラーに当てて台詞練習。深夜がゆえボリュームに気を遣い、急速に体温も奪われ続け、結果1時間足らずで退散。中途半端でしたがこのトレーニングが功を奏し、プレゼンでは無事に会場の皆さんを呪うことに成功しました。
ところでポケモンにも対戦相手に呪いをかける技があるのですが、発動には体力を半分以上削る必要があるそうです。

そして、そのまま徹夜コースに滑り込みプレゼンの構成案を紙に書き殴ります。ココ、パソコンが無くて一番困るところ!
ここでようやくやばいと戦慄しましたが、時すでに遅し。

それでもなお、「入稿は朝、プレゼンは午後14時。楽勝では?」とおきらくな見積もりをあくまで保ち、不安の種を握りつぶしたのでした。

ブラックアウト

その朝、5:30ごろ。セミナーハウス講堂に変人があらわれたそうな……。
両指10本ひとつずつ律儀に指サック【注3】をつけ、鼻炎対策用のマスク【注4】、ややヨレたパーカーと……別にまあ、見た目に無茶苦茶インパクトがあるわけでもありませんが。他チームと挨拶も交わさず席に着き、15分に一回ぐらいのペースでコーヒーを飲み続けがさつに原稿をぶん回す。そんな感じでした。

実は、テンションがピークに達していたのがこの時間帯でした。澤さんから1000字オーバーしているという連絡が来ましたが、やたら出来上がったオーラを出しつつ「大丈夫です間に合わせます」と言った記憶があります。

BOXの分量調整──こればかりは、今でもありありと思い出せます。
BOXの作中には「3つ揃うことでひとつの意味をなす要素」があります。そのひとつを、ほぼ存在しないレベルまでバッサァァーと削り落としてしまったのです。表現には魅了されていながらも、編集としてそこまで読み込みきれていませんでした。序盤の成長物語やそこからの墜落(気になる方は書籍をお買い求めくださいね)といった、物語全体のアーキテクチャを考えずに好きなシーンを優先させたのです。

主観的な編集者。
今からすれば、そんな言葉が当てはまっていたでしょう。

やった!入稿だぁ!

「やりましたねえ」と言わんばかりの、やり切った雰囲気をかもしだすつきぬけ。いやー良かった良かった!

────それが画竜点睛の「眼」を削ぎ落とした行為だと気づいたのは、朝食のタイミング。何やら様子がおかしい、明らかにやりきった空気感ではありませんでした。あくまでこれも主観ですが、澤さんはげんなりされていたように感じました。

そして言葉の節々に「心残り」の旨を感じとり、外側から少しずつ冷凍されていくようなプレッシャーがかかります【注5】。気づいたときには後戻りできず。それでもプレゼンまでの蓄えが必要なため、食事は喉を通っていくのでした。

それから午後14時まで、完全に思考がブラックアウトします。電池切れのように精神活動が停止していました。アクシデントや突然の精神的ショックを受け止めるだけの容量が残っていませんでした。これは『BOX』の劇中でも語られていることですが、身体のパフォーマンスは創作活動に多大な影響を与えます。

ダメだダメだと言われていた徹夜を強行すると、こういう結果を招くことになります。
もし、もしNoveljamの第4回があって初参加したいという人がいたら……悪いことは言いません。徹夜をしないことと、徹夜をしなければならない状況を避けましょう。どうしても時間がなかったとしても、貫徹をぶっぱなすと確実に事故ります【注6】。

ホワイトアウト

そんな調子だったわけでまともにプレゼン準備もできず、素材を米田さんに借りて突貫工事のスライドを作成。澤さんにギター弾いてもらったりとか、日野さんにマウス貸してもらったりとかいろいろ助けてもらいました。それでも、発表時間の14:00までにスライド完成せず。他チームの発表が始まり、ブラックアウトの底を突き破り、精神はホワイトアウトのゾーンへ。あたまっしろ。今からでもメンバーひとりひとりに頭下げたい。

そして狂乱のさなか、例のプレゼンが始まります。それについては、参戦記第1回の解説が詳しいでしょう。

報告を終えて

ここまでの連載と比較してだいぶ端折りましたが、Noveljam2018秋のタイムラインとしてはここまでとなります。

────本音を言わせていただきますと。
思い返す、掘り起こすという作業をずっと敬遠して、この時期まで参戦記を引きずっていました(2月が最終更新なので、2ヶ月間か)。

しかし、起こった出来事に対して「こうすればよかった」を言い続けるのは不毛だとも思っています。申し訳なさという文脈【注6】を断ち切って「悔しかったけど、ここそこは上手くいった」という風に捉え直すこと。前に進むにはそれしかないと考えます。

ここそこは上手くいった、こと

・演劇+ギター演奏形式は、十分な脚本と練習、そしてメンタル的余裕があれば上手くいった作戦だったと思う(参戦記第1回
・最初にやったアイスブレーキングはいい感じに打ち解けられたと思う(参戦記第2回
・自前プリンター作戦は上手く行ったから、次もやる(参戦記第3回
・グランプリはなんだかんだで頑張ったと思う。次の機会があれば差別化をがんばりたい(総括記事

注釈一覧(レポート内容には関わらない些末なこと)

【注1】言わずもがな編集者として致命的な気質を負っています。他人事みたいですが、開き直る or ケース別に対策を積み重ねる、しかないんだろうなと思っています。
【注2】視界が血の色で赤くなるという症状。航空機の操縦中に大きな加速度にさらされることで発生します。ブラックアウトはその逆で、脳の血流が急激に減ることで視界が真っ暗になる症状。
【注3】紙で指をかまいたちされるのが嫌というのが1つ、劇的に紙束をめくりやすくなるというのが1つ。なかなか便利ですので、お近くの百円均一にてお買い求めください。
【注4】風邪ではなく副鼻腔炎によるものです。人前ではあんまり言いにくいのですが、どうやら若干の口臭にもなってしまうようで(ホントさっさと直したい)、そんな下らない要因で著者の集中力を削ぎたくもないという想いから着けています。
【注5】澤さんも納得行っていなかったという事実もありますし、気づいた時点でどうすることも出来ない現実、直前まで入稿して有頂天だったところからの落差など、複合的な要因がプレッシャーとなりました。
【注6】とはいっても、徹夜によって痛い目見るかどうかは基礎体力次第だと思います。徹夜して上手くいった体験があるなら、その直感を信じるほうが大事ですから。
【注7】申し訳ない、次からは何とかするよ! というスタンスは一見すると誠実に見えますが。今回の僕の場合は「本当はこんなじゃないんだ、やろうと思えば改善できるよホントだよ」というプライドの発露でしかなかったと思います。そういう類の思考は無意識下で蠢いていることが多いので、少しでも認識率を上げられれば(可能ならその瞬間に排除できれば)なと思います。

忘れてないよね?

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