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暗箱奇譚 第1話

 今でも夢に見ることがある。———俺が盛大にフラれた思い出。


 あの頃の俺は、まともに友達ができなかった。理由はひとつ。「気味が悪いから」だ。何が気味が悪いかと言えば、所謂「霊が見える」系だから。一般的に見えない、証明できないものを主張する行為は「異質」で、「気味が悪い」事なのだ。

 そんな気味の悪い俺に、まったく忖度なく付き合ってくれた人物がいた。いつも笑顔で明るくて、友だちがたくさん集まってくるタイプ。クラスメイトのほぼ全員が俺を避けていたのに、アイツだけは違った。俺の話をきちんと聞いてくれたし、一緒にいてくれた。

 今まで友達がいなかった奴がそんな事をされたら………完全に勘違いしてしまった。
 俺のことが好きなんだと勘違いしてしまった。———思い出したくもない俺の黒歴史だ。
 で、俺はある日告白してしまった。
 もちろん、断られたのだが。
 俺にはそれがショックで、今も引きずっている。

 流石に、フラれたことは受け入れてるし、俺がフラれた理由も十分承知している。でも、やっぱり傷ついたし、悲しかった。ものすごく落ち込んだ。あの頃は逆恨みすらした。
 でもそれは、俺の勝手な言い分で、アイツは悪くない。むしろいい迷惑だっただろう。
 今だからそう思えるが、あの時は出来なかった。アイツを責めてしまった。最悪な男だ。

 そんな、最悪な男である俺は、ひねくれまくったまま大人になり、今に至る。世の中馬鹿ばかりで疲れるし、相変わらず化け物は視えるし、むしろソレが今の仕事に繋がっている。

 なぜか今、そんな視えるだけの化け物が実体化しだしたのだ。

 何が起きたのか、何がキッカケだったのか、それとも少しずつ進行していたのか分からないが、化け物が暴れ回る事件が発生している。化け物を見たという人や襲われた人、殺されてしまった人、画像として写った物、様々な形で顕著になり、俺は対処に追われている。
 昔から「怪異」と呼ばれることはあったが、ここまで頻発したことはなかった。しかも、それらに対処出来る人材も少ない。正しい対処法も分からない。そんな「ない」ものばかりの現状で、俺はある先輩から誘われそれらを扱う部署に所属している。
 正式名称はあるが、やたら長いうえに対象が「怪異全般」ということで、通称「始末屋」と呼ばれている。………もちろん別部署からは気味悪がられている。なぜなら始末屋はほぼ「視える」奴らだから。訳の判らない怪異を治める気味の悪い連中。それが俺たちだ。
 ただ、最近増えてきている「怪異」には、正直手をこまねいている。なんとか鎮めても後から後から湧いて出る状況だったからだ。鎮めたり治めたりする人材は少ない上に、俺はやり方を教わったおかげで、それなりの物は祓うことは出来たが、今回のような視えない人すら視えるようなヤバイものはお手上げだ。

 そんな時、頼りになる先輩が転勤してしまうことになった。この怪異は今の所日本国内で確認されており、ネットでは大騒ぎしている。(なぜか、テレビや大手マスコミはあまり取り上げないが、裏で報道規制されているのでは?と噂されている)そんなわけで、貴重な戦力である先輩も引っ張り出され、うちの部署から離れることになった。
 そんな先輩が、戦力になるという人物を紹介してくれた。てっきり、うちの部署に派遣されるのかと思ったら違った。
 彼らはあくまで協力してくれるだけで、始末屋に入るわけではない。先輩が離脱している今、臨時で協力してくれるだけらしい。しかも厄介なことがあった。

「彼らに会って欲しい。君のことを認めてくれたら協力してくれるよ」

 そんな先輩の言葉に俺は耳を疑った。
「え?認めてって………なんか条件でもあるんですか?」
「まあ会えば分かるよ。なんとか協力して貰えるように頑張って」
「ちょ……そんな、もし失敗したら?」
「———じゃあまたね」
 先輩は話を切り上げて行ってしまった。嘘だろ。俺はただ怪異が暴れ回るのを見てるだけなのか?ただの役立たずじゃないか。

 俺は、大慌てで先輩が教えてくれた場所へ向かった。そこは、いつも目にしていた駅近くのビルだったが、見落としていたのか地下へ続く階段があった。そこへ行ってみると重厚なドアがあり、「花鳥風月」と書かれていた。先輩の言ったとおりのようだ。何かの店のようだがなんだかわからない。ダメ元でドアを開けてみると、まだ店は準備中なのか少し薄暗かった。

「すいませーん。羽鳥ですがー」

 恐る恐る中に入った瞬間、開けてあった扉が勝手に閉まった。「ひ!」
 俺が小さく悲鳴を上げて身構えると

「あれー?要ちゃん、お久しぶりー」
 のんびりした声が薄暗闇から聞こえた。
「え?」
 なんで俺の下の名前を?と思っていると、そいつの近くで灯りがぼんやり灯ったらしく、姿がハッキリ見えた。———それは、着流しを着たピンクの派手な髪の毛の男だった。
「え?誰?」
「やだなぁ忘れちゃった?」
 そう言って、そいつは俺の近くにやってきた。その時、やっと俺は記憶が蘇って相手の素性に思い至った。

「まさか———ニカ?」
「よかったー思いだしたんだね。要ちゃん」
 それは、俺を盛大に振った初恋の人物「ニカ(にか)」だった。
 なんで、俺を振った人物がここに?
 なんの因果だ?
 つか、ニカはあれらが「視えて」いたのか?
 だから俺に構ってくれていたのか?

 混乱したまま俺は固まっていた。


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