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【お題】8.一緒にいたい

「と、言う訳で先輩も学生生活しましょうよ💕」

 何がというわけなのか。ちょっと何言ってるか分からない。
「いいよ俺は。ここでぐでたま生活して朽ちるんだ」
 俺はそう言って、ソファに縮こまった。
「それは困ります」
 すかさずタナカが口を出す。さっきまでキッチンにいたくせに。
「ほら、タナカさんも迷惑してるようですから、俺と一緒に新生活しましょう」
「なんでだよー。あれだろ。あの使節の協力だろ?俺はいいよ。学生なんて面倒くさいし」
「それだけじゃないです。結構楽しいですし、俺は先輩と学生生活送ってみたいです」
 なかなかシツコイ。こんなオッサンが高校生なんて演じられるわけがない。
 ——しかし、エラソウに使節に説教してしまった件もあり、俺は謎の後ろめたさを感じていた。

「俺学校行ったことないし…よく分からないぞ」
「心配いりません。俺がついてますから!大船に乗った気持ちでいてください」
「あー…分かったよ。でも無理そうなら俺は抜けるからな」
「大丈夫ですよ」
 ニッコリと微笑むカネチカの粘り強さに負けた。

 かなり不安を覚えるが、俺は高校生として生活することになったようだ。早速、カネチカが借りている部屋へ行く。ここが俺たちの新居らしい。…タナカの家から通っても良かったのだが。
「先輩ってことは、俺は年上の設定?」
 俺の質問に、何も決めてなかったのかカネチカが驚いた。
「え?………いや、一緒の学年で」
「それじゃ俺のこと先輩って呼ぶの変だろ」
「人生の先輩ですから。大丈夫です。それとも名前で呼びます?」
「ん?💢」
「ほら、だから先輩で良いんですよ」
「でも、君はソレでいいとして他の奴らがあの忌々しい名前を呼びそうでイヤだな」
「めけさんでいいじゃないですか。名字で呼ばれるかも知れませんし」
「つか、君も俺もどんな名字なんだ?」
「俺たちは結婚してますから同じ名字にしてます」
「おい。ここでもそんなこと言う気なのか?」
「婚約者とは言いますよ。法律的にまだ婚姻関係結べませんし」
 だったら一緒の名字でなくても良いと思うが。
「えっと、18才以下なのか。今の所」
「はい。高校一年生です。あと、俺たちの名字は獅子王です」
「え?今なんて?」
「獅子王です。カッコイイでしょ💕」
 なんてことだ。獅子王めけ、が俺の名前か。だせぇ、めけが全てを台無しにする。妙にカッコイイ名字だけにダサさが引き立っている!!

「今から変えられないかな」

「駄目です。それより、先輩と一緒に学校生活を送れるなんて夢のようです」
「あくまであの不器用な使節のサポートだろ。彼は知ってるのか俺が加わること」
「ええ。彼の強い願いでもありますから」
「え?俺を?なんで」
「俺と彼が恋人じゃないかって噂になってて、そのままだと調査に支障が出るから何とかしたいそうです。で、先輩が加わることで、俺が先輩と付き合ってるってなって解決します」
「はあ?なんでそんな面倒くさいことになってるんだよ。俺が入ることで余計ややこしくならないか?」
 以前カネチカを離脱させようとしたのは、こんな背景があったようだ。一体どうしたらこんなことになるのか。あの使節って無意識トラブルメーカーなのか?
「これで、学校でもイチャイチャできますね💕」
「………だから、あくまで彼のサポートだから」
「はーい」
 といって、カネチカは俺の眼鏡を外した。
「じゃ、早速施術しますね~」
「ぎゃーーー!」
 カネチカは俺の見た目を学生にすべく、あのすごくしんどい施術を始めた。元々体が原生生物(ヒト)なだけに、俺の負担が半端ない。ようやく終えると、俺はグッタリしていた。

「先輩の分もお弁当作ります。何かリクエストあります?」
「いいよ。俺のは。喰いたくないし」
「駄目ですよ。食事しないと怪しまれますよ」
「めんど…」
 と、言いかけて俺は口を閉ざした。
 カネチカは、もちろん使節の協力をしたいと思っているが、単に俺と一緒にいたいのだと気付いた。面倒な人間のフリをしてもなお、この俺と。
 カネチカの一途な思いに気付いていながら、やっと今理解するなんて使節のことを言えないな、と反省した。一度引き受けたのもあり、俺は腹をくくることにした。

「一緒に作ろう。カネチカくん」
 俺が提案すると、カネチカは酷く驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「はい💕」


 ——翌朝。
 早起きしたカネチカと一緒に起きて、早速弁当作りを開始した。
 ………だが、俺は今まで料理なんてしたことがなく。結局簡単な片づけ程度しか出来なかった。それでもカネチカは嬉しいようで、上機嫌だった。
 いつか、それなりに出来るようにならなくては。俺の課題が増えた。

 そのあと俺は、カネチカと一緒に学校へ向かった。いちいち移動するのに電車に乗ったりして、非常に効率は悪かったが、新鮮な経験だった。
 学校に着く頃には、人にあたりクラクラになっていた。………そもそも俺は人が好きなわけじゃなかった。そんな基本的なことを失念するとは。不覚。

 そんな不安だらけの学校生活が始まったが、カネチカがとても嬉しそうなので、その事だけは良かったと思った。——俺の精神が持てばいいが………。


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