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休憩処さるや :京都・下鴨神社の緑に囲まれたお茶屋さん

京都の有名な神社の一つである下鴨神社(正式名称「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ))。

京都には、南北に走る鴨川があり、その下流に祀られているのが下鴨神社、上流にあるのが上賀茂神社である。

京都の歴史に根付いた神社として、1994年にユネスコによって世界文化遺産に登録されている。


毎年5月に開催される葵祭の開催地の一つとしても有名。

その歴史はかなり古く、第10代天皇の崇神天皇(紀元前148-紀元前29年)の時代に神社が修繕されたという記録が残されている。

崇神天皇の生没年を見ても分かるように、伝説のようなものとともに伝わっている可能性はあるが、平安初期に編纂された勅撰史書である『日本書紀』(797年)には、奈良時代より大きな祭りが行われていたことが記されている。

以降、全国から寄進を受けた下鴨神社は、人々によって親しまれ、また『源氏物語』などの王朝文学の舞台にもなった(光源氏が須磨に降る前に下鴨神社の糺ノ森について歌を詠んでいる)。

また、21年のごとに神社を修理する式年遷宮の制度は、戦争や疫病によって期間が伸びた時はあったものの、今に至るまで守られ続けている。

御手洗川の様子。

戦後、森林生態学の権威であった京都大学教授・四手井綱英博士(1911-2009)によって、下鴨神社を取り囲む糺ノ森再生計画が着手された。

その後、現京都大学名誉教授である森本幸裕博士が、1992年に糺ノ森に植生する樹木を徹底的に調査した結果、針葉樹は少なく、落葉樹が多いため、森には日の光が入り安いことが判明した。

それゆえに、木々の緑と空の青、鳥居の赤という美しい色のコントラストが実現していると言える(写真を撮った日はあいにくの曇り空)。

このように、緑が美しく、いつの季節に行っても歩くのが楽しい下鴨神社には、さるやという休憩どころがある。

京都の老舗和菓子店・宝泉堂が手がけるこちらの休憩処では、かき氷やぜんざい、お汁粉のなどの甘味を味わうことができるが、中でも有名なのが「申餅」である。

葵祭の名物として江戸時代まで庶民によって親しまれていた申餅は、この度140年ぶりに、代々の宮司に継承されてきたレシピをもとに再現された。

申餅は葵祭の申の日に無病息災を願って食べられていたが、明治時代に入り、神社の祭礼が政府によって廃止されたことから、申餅の習慣が廃止された。

京都には、正月に宮中で振舞われる花びら餅や6月30日の夏越祓に残る下半期の無病息災を祈って食べられる水無月などといた季節にちなんだお菓子が数多く存在するが、申餅は政府による政策の憂き目を見たのであった。

茶屋は、木で作られた小さな建物であり、店内は開放的で明るい。

メニューはこちら。

夏に訪れたためか、ソフトクリームやあずきバーのようなメニューがあった。

こちらが、申餅と黒豆茶のセット 600円。

丹波産の小豆と餅米を使った申餅は、小豆の茹で汁によってほんのりとした「朱華色」(はねずいろ)になっている。

「朱華色」とは、明け方に空が薄茜色に染まるほんの一瞬を表すものであり、新しい日や命の誕生を思わせる色である。

ほんの2口で食べ終わるようなサイズであり、すっきりとした甘さと香ばしい黒豆茶がよく合う。


暖簾に描かれた猿。


帰りは、糺の森の木を眺めながら歩く。

先ほどの写真にも写っているが、この卵型の球体は、チーム・ラボによるプロジェクト「糺ノ森の光の祭」(2019年8月17日から9月2日まで)の一環として展示されたもの。

夜になると色とりどりの光をまとって幻想的に森を照らす。

ただ昼に見ると、何となく、恐竜や虫がおき忘れた卵のようで滑稽である。

糺ノ森の中には、河合神社という下鴨神社の摂社があり、美麗の神である玉依姫命が祀られている。

そのために、美麗祈願ができる全国でも珍しい神社としても知られている。

また、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」で始まる『方丈記』(1212)の作者・鴨長明は、河合神社の禰宜の息子としてこの神社で過ごした時期があった。

境内には、鴨長明が晩年過ごした方丈の庵が再現された建物がある。

また、河合神社の売店では、お守りの他、花梨から作られた美人水が販売されている。

飲むと美人になる水ということであるが、科学的な根拠はなどという野暮なことは言わずに、そう信じて飲むのがよいのであろう。

三重県の伊勢神宮に大きなおかげ横丁があるように、神社仏閣への参拝というのは、古来より人々の娯楽であった。

参拝に来た人の楽しみであったのが、茶屋であり、全国各地の茶屋ではその地ゆかりの名物が生み出された。

下鴨神社の申餅もその一つであると言えるが、実際に下鴨神社はかなり広く、散策には小一時間要する。

森の空気を吸ってリラックスし、程よく歩いて疲れた時に、是非行きたい休憩処さるやである。


おまけ

余談だが、さるやを手がける宝泉堂が運営する茶寮 宝泉が、この下鴨神社の近くにある。

この茶寮は、ふるふるのわらび餅と庭園が有名である。

また葵祭にちなみ双葉葵をモチーフにした小豆菓子・賀茂葵や、丹波の黒豆を使った絞り豆も見逃せない。

どちらもさるやや京都駅内でも扱いがあるため、京都らしいお土産としてチェックしたい。


休憩処 さるや

住所:京都府京都市左京区下鴨泉川町59 下鴨神社境内

電話:075-781-0010

営業時間 10:00-16:30

公式ホームページ:shimogamo-jinja.or.jp


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