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言葉の中にメッセージはあるか?

お店に飾るための、蘭を買いに行った。

私の町には、大きなスーパーマーケットが、コストコを除けば3軒ある。その中の一つの店の蘭は、たいていフレッシュで、種類も豊富なのを発見して、最近はそこで買うことにしている。

入口に入ったとたん、目に飛び込んできた色とりどりの蘭が迎えてくれる。

ああ、眩しい。

歩いて回るも、どれにしようか、視線があちこちに飛ぶ。お花に囲まれる、この瞬間の胸の高鳴りはいつも。

私を見つめる蘭もあれば、よそよそしくそっぽを向いているものもある。

ふいにカウンターで、花の手入れをしていた背の高い女性が近づいてきた。

「素敵でしょう?
これを見てごらんなさいよ、
本当に色鮮やか。
こっちのはね、今日入ってきたばかりよ。
このタイプの蘭はなかなか見かけないのよ」

そうして、あっちにあるのは、幾ら、こっちのはこんなに安くなってるし、ねえ、こんなにきれいなのに、たったの幾らよ~

と、それはそれは嬉しそうに話してくれる。

「蘭が大好きなのね」と、言うと、
「そうなの、毎日、こんな素敵な私のベイビーと一緒にいられるのは、私の楽しみよ!」
と、彼女は蘭をバックに、ゴージャスな笑顔を見せてくれた。

彼女のお陰でこの売り場は、こんなにもいつも華やかなんだ、と納得した。どうりで他の店とは違うわけだ。

こういう人が、店をLIVELYにするのだと思った。

そう、LIVELYにする、というのはこういうことなのか。


実は、先日、休みを取ったスタッフの代わりに、テイクアウト専門のお店に出ていた。

ここは、冷蔵ショーケースに入っているおスシや丼ものを自分でとって、食べるスタイルの小さなお店。レストランをオープンした4年後に、レストランの隣にオープンした。チームで働くレストランに比べて、ここでは、一人で店のレジに立つ。お会計をしたり、お客さんと会話したり、食品を入れたり、掃除をしたりとなかなか忙しい。

テーブル席で、セルフサービスのあったかいおうどんを、旦那さんとゆっくり味わっていた常連の女性が、私に帰り際に言ったのだ。

「あなたは、この店をとってもLIVELYにしてるわ!」と。

その言葉の本当に意味するところが、蘭の売り場にいた女性の接客に触れてすとんと落ちた。

LIVELYは、ふつうに訳せば「活気ある」だけど、
それは、平面だったものが、立体を帯びてくる感じなのだと。
ただの言葉が、受け手に、リアルに心に響いてくるのは、LIVELYだからこそ。

自分が大好きなものを伝えたい、シェアしたい、そして相手にも喜んでもらいたい、というメッセージが、フラットだった言葉を立ち上がらせる。

ありがたいことに、レストランのダイニングで働くスタッフには、それが多く見られる。

彼らはここで提供される食事にわくわくし、お客さんに共有したくて仕方がない。
というのも、彼らはまだ若くて、それまでに体験してこなかった味覚を広げた場所が、ここだったから。

初めての生魚、
様々な種類のおスシ、
出汁のきいたお蕎麦、
焼き魚やカツ丼。

幸運なことに、彼らはお店の味をとても気に入ってくれた。

彼らの休みの日にさえ、友達や家族と食事に来るほど、うちのファンになった人たちが働いてくれることこそ、理想的なことはない。

だから、お客さんにも料理の説明は情熱的だ。

ある日は、若いグループに、「うちの広島風お好み焼きを食べたら、人生変わるよ!」と推していた。
(実際、食後に、人生変わった、と言ってもらえたらしい。笑)

あの、蘭を売る女性のような人が、うちでも働いてくれていたのだ。

彼らは、彼らの体験した驚きと、楽しみを、素直にお客さんに伝えてくれている。


そういえば、以前、マネージャーが言っていた。
新しいスタッフへの教育は、長く働いている人に任せていて、私は関わっていたなかったのを、彼がこう言ったのだ。
「ナオコ(私のこと)は、教育するときに、その中にちゃんとメッセージがあるから、相手に伝わりやすいんだよ、他の人はそこまでできない。」

何かを伝えるとき、マニュアルを下地に、どこまで言いたいことを伝えられるかどうかが大切になってくる。

言葉が立ち上がって、生き生きとしてくれば、相手の心にも深く入っていき、記憶にも残りやすい。お店のオーナーである私が、多くの情熱を持っていることは当たり前だ。けれど、そうでなくとも、それを伝えることが上手な人と、そうでない人がいるのも確か。

スタッフへの教育、ということであれば、どうしてそうなのか、なぜそれをやるのか、といった情報や、その背後にあるストーリーを伝えることも、言葉を立体化させると思う。そうすることで、個人的な体験や、感情を超えて、誰もがメッセージを言葉に持たすことが、できやすくなる。

これからも、スタッフが楽しんで、情熱を持って働き続けられるよう、
私は彼らに、言葉ではなく、メッセージを伝えていきたい。

お店に飾った蘭を見るたびに、あの彼女の笑顔と、それ以上のものを思い出すのだから。






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