見出し画像

光を背中に帯びる。

 最近、人を救うこということについて考えざるおえない状況が起こっている。

 実家は福祉活動をしている。そのせいで、物心ついた時から知らないひとが家を出入りしていた。ゆえに、面白いエピソードがたくさんある。

 ある日、学校から帰ってくると、ひとりの見知らぬ年配の女性が台所にいて祖母と話していた。習い事から帰ってきても、まだ家にいた。その晩、そのひどく痩せた女性は家に泊って行った。

 翌朝、彼女は色々な理由をつけて、祖母から一万円を借りた。家族はどうせ返してくれないのだから、と祖母を説得しようとしたが、結局あげた。もちろん返ってこなかった。

 最近、我ら家族はひとりの年配の女性の方と夕食を共にしている。最近、骨折をした一人暮らしのAさんは祖母の知り合いなのだが、母が「手が使えないのなら、ご飯もつくれないでしょう」と言ったことがきっかけとなり今の状況になった。

 彼女は祖母の共通の知人たちからの評判がすこぶる悪く、食事中、近所のひとや息子の嫁の悪口をえんえんと話し続けている。

 最初、Aさんといっしょにいると背中のあたりがどんよりと重くなるのを感じた。申し訳ないが居心地が悪いのだ。口をひらけば他人の悪口を言い、いかに自分が正しいか、ということを証明したいようだった。タバコの吸いすぎによって枯れた声で、聞いているひとたちが不快になるようなことばかりを言うのだ。

 しかし、それでも僕は思う。

 あらゆる状況は自分の魂の成長にとって理由があるのだ、と。

 この前、食事が終わったあと、洗面所に行って、古い包帯をほどいて、Aさんの腕を丁寧に洗ってやり、新しい包帯を巻いている母の姿を見た。自分は母のことを見直した。後ろからその様子を見つめていたのだけれど、その背中が何だか、光っているように見えた。

 母はけっして、マザーテレサのような聖人ではない。バーゲンでCoachのバッグとかを買ってくる。でも、いざひとを救うという時、そこまでやるのか、と感心させられることになる。

 Aさんは今日、はじめて夕食代を持ってきた。彼女はお金は持っているのだ。だから彼女の意志次第では、出前を頼むなり何なりできるのだ。僕はその女性が母と話をしているとき、少しの間だけ、彼女の目を見つめてみることにした。

 彼女の口から出てくる悪口や文句を聞こうとせず、静かにただ彼女の両目を見つめていると、まもなく、僕はさびしさを見つけ出したのだった。

 普通、ひとの本質は表面上の見た目や声だけでは見抜くことができない。一見、いつも怒っているひとが実は悲しみやさびしさを抱えていて、誰かに助けを求めている場合がある。でも、そのひとは声がつよかったり、大きかったりするので、ただの怒りっぽいひとだと思われてしまう。

「そうか、さびしいんだな」と僕は思いながら、Aさんの目を見ることを止めて、身体全体を見ることにした後、彼女のハートのなかに輝く光をイメージすることにした。彼女だって、もともとは神(宇宙)の愛から生まれたのであるし、神(宇宙)がゆるしているからこそ、Aさんはそこにいるのだ。

 それから、不思議とそれまで感じていた彼女の口から出る言葉に不快感を感じなくなった。それらの言葉がすべて「わたしを助けてほしい」、という彼女の訴える声に聞こえたのだった。

 詳しく話すと長くなるけれど、Aさんの生い立ちは不幸なものだった。両親は離婚し、高圧的な母親に引き取られ、自分自身も離婚し、子供も離婚していた。だから子供や孫にもなかなか会えない。

 たぶん、目の前で起こることはすべて他人事ではない。実際、Aさんに対応しているのは、母と祖母だけれど、現在の状況は自分に突き付けられている。「お前は普段、noteで偉そうなことを書いているが、ひとを救うということはここまでやるんだぞ」と神(宇宙)に言われている気がする。宮沢賢治ではないが、孤独なひとがいれば、食事に呼んでやり、包帯を巻いてやる、ということをしないといけないのだ。

 だが、今の僕にできたのは、ただ無言のうちに彼女が他人を責めることではなく、自分のなかの光に気づくことができますように、と祈ることだけだった。

 これから我が家と彼女の関わりがどうなるのか分からない。夕食のリラックスタイムを赤の他人と過ごすということは少なくないストレスになる。おそらく祖母も母もひとを救うことは「自分が損をすること」をしっかりと含んでいることを知っている。

 しかしふたりは知らず知らずのうちに奉仕をする人間しか帯びることのない光を背中に得ている。もちろん、僕はそれを口に出さない。ある種の神々しさというのは口に出すと台無しになってしまうものなのだ。

─────────────────────

 年末まで毎日投稿すると宣言していましたが、風邪を引いてしまいダウンしていました。申し訳ありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?