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煙突はなくったって

 「煙突がない家にはサンタクロースは入れないんだよ。それに我が家はキリスト教じゃ無いから来ないのよ」昭和40年代田舎町に住む私は、母にそう言われて12月24日を迎えていた。

 それでも日頃食べられないホールのケーキにジュース、お菓子の山を貰って、ホクホクのクリスマスを迎えていた。おもちゃ?そんなの無かった。欲しい物は年明けのお年玉で買えたし、ゲーム機など無い時代、せいぜいサンリオの《いちご新聞》や文房具を選ぶのが常だった。


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 病院でもうすぐクリスマス会が開催される。といっても、室内でカラオケをしたり、ジュースやケーキ(嚥下が悪い患者さんはプリン)を食べるくらいのものなの。皆が集まるホールでは飾り付けをしてあり、クリスマスツリーもランダムに眩い光を放っている。

 一番の目玉はビンゴ大会。職員の家にある要らなくなったものを寄付したり、ティッシュペーパーなどを買ったりして景品を揃えている最中だ。患者さんにとって、欲しいであろう食べ物はNG。病院だもの、仕方ないよね。


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 車椅子のランさんはお洒落な70代。年に数回、家族と外へショッピングへ行き、黄色いカーディガンや赤いジャケット等を買ってこられる。しかし、今年は面会も制限され外出の許可も難しい。秋には買い物へ行く予定だったが、またコロナのピークがきて諦めざるをえなくなったんだ。 

 ビンゴの景品には新品の洋服やショールもあり、どんなものが欲しいか尋ねてみた。ランさんは即答で欲しいのはカレンダーだと言われた。100均にも売ってある来年のカレンダー。だって、買い物には行けないんだもの。家族といっても、年老いた姉だけで、そうそう来れないんだもの。


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 幼い頃、煙突がないからサンタクロースは来ないって思ってた。それでも不自由はしなかったし、100円玉握りしめたらなんでも買える気がした。友達と駄菓子屋さんへ行って甘納豆のくじも引けたし、みかん味のフーセンガムも買えた。公園でブランコに乗って靴を飛ばし合うだけで楽しかった。

 私はランさんと一緒に外出は出来ないし、お洒落な服なんて寄付できない。サンタクロースにはなれないけれど、100玉握りしめて百均に行くことならできる。いや、108円だけどさ、いくつか買って帰ろう。ビンゴの景品に選べるほどのカレンダーがあったら、喜んでくれるかな?





 







 

 

 



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