ぼくが見たサンクトペテルブルク 第1章 彼女の手荒い見送り

彼女ができたらそう1人で旅行などはできまいと付き合う前日に予約したロシア旅行は、出発前日に彼女にフラれるという手荒い見送りを受け、初日を迎えた。

案の定、後悔とヤケ酒がしっかりと残っている。

今朝起きて、旅行への脚取りが重くなってキャンセル、というオチを心配したが、杞憂だった。むしろ体が疼き、妙に歩き出したくなった。

ありもしない食欲を捏造し、家系ラーメンを消化管に叩き込んだ。後悔はこうして積み上がっていくんだなぁ。また1つ勉強になった。
時間は戻らないが、胃の内容物は戻り得る。

ロシアに行くまでに、そのきっかけとなった本と、『罪と罰』をもう一度読むつもりだったが、気持ちの整理に全脳細胞を動員しているため、目に飛び込む活字がただの記号として視神経を通過していく。
自分で思っているよりダメージを受けているようだ。

旅行のための事務的な手続きをしているときが1番楽だ。
その次にこうして日記を書くこと。ただ書いても書いても、太宰をパクろうとした高校生の痛いポエムにしかならなくて、人に読んでもらう文にするのが大変だった。

ロシア文学は、その気候や歴史の力を借りて、陰鬱と不条理を芸術に昇華させていると言われる。もしかして、今の時期に今の感情を抱えて行くのは、奇しくも最適解なのでは…そんな軽口を叩けるくらいには、まだ余裕がある。

これはやっぱりあとから効くやつだ。
キンッキンに冷やしたウォッカみたいに。

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