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展覧会レポ:松岡美術館「美しい人びと 松園からローランサンまで」

【約3,400文字、写真約35枚】
タイトルの「松園からローランサンまで」に惹かれて、初めて松岡美術館に行きました。その感想を書きます。

結論から言うと、すごく良かったです(おすすめ度は★4)。良かった点は、1)「美しい人びと」のキュレーションが良く、作品1点1点の見応えがあった点、2)常設の展示はさながら博物館。コレクションの振れ幅が広く、美術館全体で知的好奇心を満たしてくれた点です。松岡美術館は、故・松岡清次郎のコレクションのみを展示。松岡清次郎の美術に対する思いを垣間見ることができたため、私立美術館の面白さを改めて感じました。

➢ 松岡美術館へのアクセス

白金台からの看板はこれのみ(多分

松岡美術館へは、白金台駅(三田線)から徒歩約10分。目黒駅から徒歩約15分。目黒駅付近の美術館といえば、目黒区美術館や東京都庭園美術館がありますが、松岡美術館の存在は初めて知りました(何度か行ったことがある東京都庭園美術館のすぐ近くにあってびっくり)。近辺の美術館や目黒駅に松岡美術館のポスターを貼るなどして宣伝した方がいいのでは?
また、白金台駅からも美術館に行く途中、電柱に「あと●●メートル」のような案内を1〜3枚貼ってもらえると親切だと思いました。

👇 目黒区美術館

👇 東京都庭園美術館

住所:〒108-0071 東京都港区白金台5丁目12−6

➢ 松岡美術館とは

入り口の看板
全景

松岡美術館は、初代艦長である松岡清次郎が約半世紀をかけて蒐集した約1,800の作品で成り立っています。そのほとんどは松岡清次郎本人がロンドン、NY、パリのオークションで落札してきたとのこと。

松岡美術館の特徴として、レンタルした作品を展示していない点があります。これは松岡清次郎の信念「私立美術館は美術品を蒐集した館の創立者の美に対する審美眼を、その一つひとつの美術品を通して、ご覧いただく方に訴えるべきところ」からきています。しっかりした考えをお持ちですね。

入ってすぐにある松岡清次郎のブロンズ

松岡清次郎は1894年生まれ。第一次世界大戦時に、当時は先進的だった第三国中継貿易でビジネスが大成功。その後、倉庫業、不動産業、観光業、教育事業など数々な事業でも成果をあげたことで、巨万の富を得たそうです。初めに貿易で扱ったのがイミテーションダイヤモンド。そこで美しいものに魅了されたことから、美術品の蒐集を始めたとのことでした。約1,800点の美術品の蒐集にいくらかかったのか気になるところです。

創立者 松岡清次郎の略歴

松岡美術館は、松岡清次郎の私邸跡地に建てられています。

エミール=アントワーヌ・ブールデル「ペネロープ」。入ってすぐ正面に鎮座。すごく悩んでる
右:「ゼウス」。2世紀頃の作品(古さにびっくり
きれいに手入れされた庭園
庭園を望むベンチに座ると気持ちがいい。庭園とソリッドな室内の対比が良い

➢ 「美しい人びと 松園からローランサンまで」

ポスター。上村松園「春宵」がメインビジュアルだが、後期は展示がなかった
チケット(¥1,200)
解説が書かれたパンフレットを200円で販売(珍しい)。アーティゾン美術館はすごく丁寧なカラー刷りのブックレットを1つのコレクション展で4種くらい無料配布していました

今回の展覧会に行きたいと思った理由は、「松園からローランサンまで」とある通り、上村松園の作品を見たかったからです。

同月に、松伯美術館(奈良)で上村松園の展覧会に行きました。その時に初めて上村松園について知り、興味をもちました。その展覧会では下絵ばかりしか展示されておらず、完成品の上村松園の作品を見たかったため、この展覧会に吸い寄せられました。

この時、松岡美術館に展示されていた上村松園の作品は以下の2点。

上村松園「寿三番叟」
上村松園「藤娘之國」

ポスターのメインビジュアルにある「春宵」を見たかったですが、後期には展示されていませんでした。上記の2点も素朴でかわいかったものの、せっかくなら襖絵くらい大きな作品を見たかったです。

日本画は、ペインティングナイフで塗り重ねる西洋画と違って、薄塗りで繊細。日本画の色使いはCGのようで、特に青がきれいだと思いました。徐々にですが、美人画の面白さがわかってきました。どの時代もトレンドがあります。今の時代でいう萌え絵が、当時の面長・切れ目の美人画だったのかな。

蹄斎北馬「三都美人図」
松室 加世子「燭光」。今回の展覧会で一番気に入った作品。和魂洋才でクール
展覧会内の風景(展示室5)
林美枝子「夏夕」。見ているだけで涼やかな気持ちになります。菱田春草「黒き猫」のような黒猫は触ると気持ちよさそう
タイトルは「美しい人びと」。男性もその範囲に入れる考えが良いキュレーションと思いました
池田蕉園「桜舟」
いかにも気持ちよさそうな表情で歌っていてクスッとしてしまいました
池田輝方「紅葉狩」
真ん中の女性がバラクラバみたいでおしゃれ。左の女性の「ははん」みたいな表情も面白い
マリー・ローランサン「左:若い女、右:帽子をかぶった女」

撮影は半分くらい不可でした。作品はすべて松岡美術館の所蔵なのにどうしてだろう?どうしても撮りたいという訳ではないですが、単純に気になりました。買い取った時にそのような取り決めがあるのでしょうか?

撮影禁止の作品の中で気になったのは、梶原緋佐子「白川路」。稲を片手に持った女性の絵です。「美しい人びと」という文脈の中で、お姫様だけでなく、「働く女性」を挿入するセンスが良いと思いました。

➢ その他の展示

パンフレットより

松岡美術館の展示室は全部で6つあります。その中で企画展は展示室5と6で開催。その他の展示室1〜4は常設展という構成でした。

常設展は、東洋陶磁、古代東洋彫刻、現代彫刻、古代オリエント美術といったジャンル。企画展と比べて振れ幅が大きかったため興味深かったです。

展示室4「憧憬のペルシア」
「黄地彩画 山羊文 鉢」イラン ニーシャープール 9-10世紀。動物の絵が素朴でかわいい
「色絵 騎馬人物文 鉢」イランカーシャーン 13世紀。『あたしンち』みたいな顔
「青釉 子持壺」イラン グルガン 12世紀。壺に壺が4つ付いてる。ファイナルファンタジーの敵に出てきそう
「青釉 牛形 水注」イラン グルガン 12-13世紀。とぼけた顔がキュート
展示室3「古代東洋彫刻」の風景
絵画から仏教彫刻まで、松岡清次郎の好みの幅が広い
「踊る少年クリシュナ」ブロンズ 南インド。すごく楽しそう
展示室1「古代オリエント美術」にあった「彩色木棺」伝中部エジプト 末期王朝時代 第30王朝ープトレマイオス朝時代初期 (前4世紀頃)
品揃えがまるで博物館

展示室2「現代彫刻」には、ヘンリー・ムーアの作品も4点ありました。ヘンリー・ムーアはMOA美術館で見て以降、興味をもちました。松岡清次郎は、野外美術館を造る構想もあったらしく、ムーアなどはNYのオークションで落札したとのこと。野外作品用のためすごく大きくて存在感があります。ボテっとした女性のような巨大なブロンズはユーモラスでした。野外に置いてあると、つい登りたくなりそうです。すべて撮影禁止なのが残念…!

ヘンリー・ムア「王と王妃」(MOA美術館、2023年4月)
(左)買ったポストカード上村松園「春宵」。(右)アンケートに答えるともらえたポストカード

➢ まとめ

いかがだったでしょうか?私は初めて松岡美術館に行きました。なぜ今まで行かなかったのだろうと思うくらい楽しかったです。企画展の作品は1点1点どれも良かったし、常設の展示物は博物館のようで、知的好奇心を満たしてくれました。松岡清次郎に感謝です!松岡美術館の知名度はあまり高くない(?)ので、休日でも比較的ゆったり鑑賞できると思います。

➢ 補足

展覧会名:美しい人びと 松園からローランサンまで
場所:松岡美術館
おすすめ度:★★★★☆
会話できる度:★★☆☆☆
ベビーカー:ー
会期:2023.02.21〜2023.06.04
住所:〒108-0071 東京都港区白金台5丁目12−6
アクセス:白金台駅から徒歩約10分
入場料(一般):1,200円
事前予約:不要
展覧所要時間:約1時間
混み具合:ストレスなし
展覧撮影:半分くらい撮影可能
URL:https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7542/

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