見出し画像

展覧会レビュー:「東京国立近代美術館70周年記念展重要文化財の秘密」「MOMATコレクション」@東京国立近代美術館

全てが重要文化財という東京国立近代美術館(MOMAT)の企画展とコレクション展に行きました。その感想を書きます。

結論から言うと、企画展は眼福だったものの、若干の違和感が拭いきれませんでした。一方で、コレクション展はいつも通りの大満足。キュレーションのセンス、コレクションのクイリティと魅せ方はさすがです。
両方で1,800円は納得できるレベル、おすすめ度は★4です。

入り口。当日は生憎の雨

欲を言えば、授乳室があるものの、お湯を出せるところがない。「授乳」と一口と言っても、哺乳瓶で与えることも想定いただけると助かります。

東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密

建物入り口前にある掲示。チケット売り場は人がたくさんいたため、事前のネット購入がおすすめ
チケットには高橋由一「鮭」が使われているが、”問題作”ではない。ミスリードではないか?
展覧会の出口にあるフォトスポット。高村光雲「老猿」も”問題作”ではないと思うが…

そもそも「重要文化財」とは、文化財保護法に基づき、文部科学大臣が文化審議会で諮問した後、指定されます。保存には国庫補助が行われます。
序列は「文化財>有形文化財>重要文化財>国宝」です(→詳細)。

東京国立博物館で「国宝 東京国立博物館のすべて」という似た展覧会がありました。それは国宝を並べただけでしたが、本展覧会は「問題作が傑作になるまで」というストーリー性が付加されている点が期待ポイントでした。

しかし、「問題作が傑作になるまで」はあまり頭に入ってきませんでした。
作品ごとに付けられているキャプションをよく読むと「当初は重要文化財に落選したが、最近になってxxという理由で指定された」など、作品の背後にあるストーリーのニュアンスはたまに読み取れるのだが、キャプション内に「問題作」というワードは使われていないし、そもそも「ここが素晴らしいため重要文化財に指定された」という内容がほとんどだった気がします。
この副タイトルは過大かつ不当だと思いました。素晴らしい作品ばかりで眼福でしたが、個人的にはこの副タイトルのストーリー性に大きく期待していたため少し残念な結果となりました。

上記のようなストーリーを際立たせるために、1)館内に吹き出しや、イラストを使うなど、キッチュでもいいから分かりやすく表現したり、2)作品リストには制作年に加えて、重要文化財に指定された年も書いてあると面白いと思いました。

「東京国立近代美術館70周年記念展」という割には、半分以上の作品はレンタルだったのも、ちょっと誤解を与えるのではないか?

狩野芳崖「不動明王図」。明治以降、初の重要文化財
館内の様子。人は多かったが、嫌になる程でもない。外国のお客さんが目立った
菱田春草「王昭君」
高橋由一「鮭」。本展覧会のメインビジュアルにも使われている。西洋画で初めて指定された重要文化財だそう
和田三造「南風」
萬鉄五郎「裸体美人」。岩手県立美術館に行って以降、彼の名前がよく目に入るようになった
高村光雲「老猿」。制作は1893年だが、重要文化財への指定は1999年だそう
鈴木長吉「十二の鷹」
岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」。麗子蔵よりもこの変哲のない坂道の方が好み
鈴木長吉「鷲置物」
初代宮川香山「褐釉蟹貼付台付鉢」
買ったポストカードの原田直次郎「騎龍観音」。実物は大きすぎて写真に収まらず。 当時は和魂洋才な描き方が受け入れられず、「サーカスみたい」と揶揄されたとか

撮影不可な作品の中で、特に記憶に残ったもの。
●横山大観「生々流転」:40mの巻物の大作。間がうまく使われており、CGのような濃淡の書き分けがすごい。まるで描かれた景色に流れる河の音や風を感じるような印象で、和製シスレーのような気がしました。
●福田平八郎「漣」:水面を多くの短い横線だけで表現された絵はまるで現代アート。このようなモネ的発想の転換からは示唆をもらえます。

余談:NHK「日曜美術館」でこの展覧会の特集は、「問題作が傑作になるまで」という背景はわかりやすかった。美術館の展示方法でも、視覚的にその意図が分かりやすく表現しないと折角のキュレーションももったいない。

MOMATコレクション

「むしろ本編」には少し笑う
「自信があります」美術館で初めて聞くセリフ

「むしろ本編」「自信があります」と自ら言うくらい、MOMATのコレクション展は確かに都内でも屈指のクオリティと見応えだと思います。
展示数が多く、聞いたことがあるアーティストも多数。キュレーションの切り口も面白く、現代アートも継続的に購入していることも嬉しいポイント。
セクションの説明や、作品のキャプションは、ところどころ口語体になっていて、観覧者に寄り添った仕様に近づけている努力を感じます。

このフロアでは、男性と女性の作品を交互に配置する面白い試み。国立のわりにMOMATは細かい部分でチャレンジングな意志を感じる
桂ゆき「ゴンベとカラス」。横浜美術館で彼女の作品を見て以降、可愛くて気に入っています
岸田劉生「蕪図」。丸っこくて可愛い。麗子像だけでない岸田劉生
萬鉄五郎「もたれて立つ人」。額縁にもたれているらしい
荻原守衛「女」
仲田定之助「首」。まさに立体的キュビズム
ワシリーカディンスキー「全体」。頭を抱えているおばさまが面白かった
鶴田吾郎「神兵バレンバンに降下す」。当時は「あまりに楽天的」と批判されたらしい。清々しい青空と手榴弾を投げる兵隊の対比が強烈な違和感
高松二郎「日本語の文字」。つい文字数を数えてしまう不思議な作品
斎藤義重「反対称正方形」。作品よりも着物美人に目がいく
工藤哲巳「あなたの偶像」。怖すぎる
岡本太郎「夜明け」。「夜」のような作品
草間彌生「天井よりの啓示」
船田玉樹「花のタ」。田中敦子のようなボタボタ表現を屏風に描くのが面白い。作者がキャンバスに選ぶ理由に「屏風を屏風のジグザグの折れに独特の画面効果が望める」というのは初めて知った
岸田劉生「麗子肖像」
岸田劉生「田村直臣七十歳記念之像」と修復インタビューの動画。修復する際は、経年変化を残しつつ、将来除去可能な塗料で修復する、というのは知らなかった
ルーチョフォンタナ「空間概念 期待」。私が好きなアーティストの一人。裏に黒い紙を貼って、凹み具合を丁寧に計算しているのは初めて知った
冨井大裕「ゴールドフィンガー」。遠くから見るとスパンコールかな?と思ったが…
近くで見ると全て画鋲!これ全部、学芸員が壁に手で刺していったのかな…?
作品名不明だが、鏡があったので記念撮影
アントニーゴームリー「反映/思索」とイサムノグチ「門」。「門」は最近になって青く塗り替えたらしい
2階からの景色。雨でも桜が綺麗

まとめ

いかがでしたでしょうか。企画展では全て重要文化財という眼福であったが、どうしても「問題作が傑作になるまで」という副タイトルが期待外れでちょっとがっかり。とはいえ、コレクション展はいつも通りの品揃えと、クオリティの高さ、キュレーションの意外さもあって満足でした。
両方で1,800円というのも納得できる価格でした。

補足

展覧会名:「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」「MOMATコレクション」
場所:東京国立近代美術館
おすすめ度:★★★★☆
会話できる度:★★★★☆
ベビーカー:ー
会期:ともに2023.3.17 - 5.14
アクセス:竹橋駅から約10分
入場料(一般):1,800円
事前予約:した方がベター
展覧所要時間:約2時間
混み具合:休日は若干混雑するものの、大きなストレスはない
展覧撮影:企画展は一部不可。常設展は全て可能
URL:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/jubun2023/ 
https://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20230317/

今日の美術館飯

THE SEVEN’S HOUSE - 新クラーク・カレー (¥1,400)

Thank you for your support!