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【今日の『つかまれたつかみ』 #1】ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐず……

『文章は「つかみ」で9割決まる』という本を出しました


最初の数行だけで、読み手の心をわしづかみ。読み手は続きを読まずにいられなくなる。そんな「つかみ」を独断と偏見で紹介する──。

こんにちは、ライターの杉山直隆と申します。

今年5月に『文章は「つかみ」で9割決まる』という本を発刊しました。

「読み手の心を惹きつける文章のつかみ(書き出し)を書くには?」というテーマの本で、小説からノンフィクション、エッセイ、最近のバズったウェブ記事まで、さまざまなつかみの実例を取り上げています。

この本では、できる限り多くのつかみの実例を紹介したかったのですが、スペースの都合で泣く泣くカットしたものも。
また、すっかりつかみをチェックするクセがつき、本が完成した後も「これはマネしたい…!」と思うつかみが目に入ってくるようになりました。

それなら、自分一人でため込んでいるのもなんなので、どんどん出してしまおう。

というわけで、「今日の(私が)つかまれたつかみ」として、ちょこちょこ紹介したいと思います。

つかみを考えるときの参考になれば幸いです。


さて、第1回のつかみは本書のなかでも紹介したもので、タイトルにちょっとだけ載せました。
誰の何の作品かお分かりですか?



一文入るだけで、インパクトがまったく違う



正解は、沢木耕太郎氏の『深夜特急』。
「バックパッカーのバイブル」とも言われる名作ノンフィクションです。

改めて、『深夜特急』は、次の「つかみ」からはじまります。

ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐずしてはいられない、と思ってしまったのだ。

『深夜特急』沢木耕太郎/新潮社

主人公が、「ぐずぐずしてはいられない」というのはいったいどういうことなのか。先を読み進めて、知りたくなる「つかみ」です。

この文章のあとには、次の文章が続きます。

 私はインドのデリーにいて、これから南下してゴアに行こうか、北上してカシミールに向かおうか迷っていた。
 ゴアにはヒッピーたちの楽園があると聞かされていた。それがどのような種類の楽園なのかは定かでなかったが、少なくとも、輝くばかりのゴアの海沿いの土地では、デリーやカルカッタの何分の一かの金で楽に暮らすことができるという話に嘘はないようだった。

『深夜特急』沢木耕太郎/新潮社

とくにひねりを加えない順序で書くとしたら、「ぐずぐずしてはいられない、と思った」という気持ちはこれらの話のあとにくるはず。それを、あえて冒頭に持ってきているわけです。

最初に「ぐずぐずしてはいられない」という1文があるとないでは、インパクトがまったく違いますよね。

状況説明の前に、あえて気持ちを一文入れてみる


自分が置かれている状況の説明から始まる文章はよくありますが、その前に「自分の今の気持ち」を一文入れるだけで、読み手の興味をそそる文章になります。

喜びや怒り、悲しみ、楽しさといった「喜怒哀楽」だけでなく、あせりや苦悩、逡巡…。
状況説明をすることなく、そうした感情・気持ちが一行目から出てくると、読み手は「なぜその気持ちになったのだろう?」「そもそもどういう状況?」と気になり始めて、先を読みたくなるわけです。

気持ちのパターンによっては、「そういう気持ちになること、自分もあるな」と書き手に共感を覚えることもあるでしょう。

気持ちを一文だけ前に持ってくる。ぜひ意識してみてください。


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