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静嘉堂文庫美術館/明治生命館(東京都千代田区・二重橋前駅)

世田谷区は岡本の地にあった静嘉堂文庫美術館が、長期の休館を経てこの丸の内にて新たな産声をあげた。昨年に休館前の最後の展示へ訪れてから、しばらくご無沙汰していた静嘉堂文庫。三菱の創業者である岩崎家による美術館ということで、丸の内には三菱一号美術館と並ぶ三菱系列の大きな美術館が並ぶことになる。場所も三菱一号美術館の目と鼻の先、皇居と道を挟んだ好立地に構えており、三菱一号美術館、出光美術館と丸の内の徒歩圏内に美術館が3つもできるわけである。東京駅の周辺までエリアを広げると東京ステーションギャラリー、三井記念美術館、アーティゾン美術館と合わせて6つの巨大な美術館が集うことになる。

明治生命館の中に移転した静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館が入っているのは明治生命館という建物の1階部分。この明治生命館明治安田生命保険の本社屋として活用されている1934年から使い続けられている重要文化財となる建物。岡田信一郎による設計と内藤多仲による構造設計で生まれた建物で、建築に興味があればその名を知らない人がいないビッグネームが手がけていることでも注目度が高い。内部を見学することもでき、皇居に面している日比谷通り側にある入口から2階へ上がって一通り自由なペースで閲覧できる。

大理石で飾られた柱や巨大な大広間など、建築当時の主流であった古典主義様式の意匠が施されている。当然のようにマントルピースも設えてあり、その意匠は外観に特に顕著な特徴として見てとれる。大理石で構成された内装は壁や床にも保存されていて、中には大理石に残っている化石なんかもあったりする。各部屋には希少な木材がふんだんに使われて高級感が半端ない。2階の回廊からは1階の明治生命の店頭営業室や静嘉堂文庫美術館が見渡せる。

なんなんですかこの拡張高い空間は

その静嘉堂文庫美術館は中央にある吹き抜けのホワイエを中心にして3つの展示室の入り口と繋がっている。基本的にはそのどこからでも観ることが可能になっていて、展示室3の奥には展示室4があるという造り。今回の企画展では静嘉堂文庫美術館の収蔵品を紹介することをメインに据えており、いわゆる静嘉堂文庫の顔とも言われている国宝「曜変(稲葉)天目茶碗」をはじめとして国宝や重要文化財などが勢揃いしているのも注目度が高い。

時間指定の予約制ではあるけれど開館時間から入場には行列ができておりなかなかの混雑ぶり。みんな展示室1か展示室4にある曜変天目茶碗を目当てに展示室3へと入って行く中、素直にそれに従って行くと混雑することが目に見えているので展示室2あたりから攻めてみると、意外にもこちらは見学者ゼロという有様である。展示室2は中国の絵画や工芸品を中心とした展示室になっており、かなりの時間こちらを独占。心ゆくまで堪能することができた。ここでは景徳鎮官窯で作られた陶磁器が多く目を惹く。中でも精緻な技術で龍があしらわれている「五彩雲龍文盤」が目を惹く。

これはホワイエに展示されている古伊万里

隣接する展示室3では琳派を中心とした作品になっている。尾形光琳に本阿弥光悦、酒井抱一といった琳派の代表的な人物による作品。中でも原羊遊斎による根付や尾形乾山の「住之江蒔絵硯箱」のデザインセンスに惚れ込む。一家に一つ持っていたいものです。つづいて混雑する前に展示室4へ。曜変天目茶碗は移転前の展覧会で観て以来の邂逅。最初は四方に回らされたガラス展示の周囲に人だかりができていてさすがの人気だったので避け、展示室3へ戻って改めてじっくり鑑賞、また展示室4にある刀剣「包永」や書「与中峰明本尺牘」といった国宝や、白磁の綺麗な蓮華文輪花鉢に目を奪われていると、満足した人たちが散らばって行き曜変天目の周囲に人だかりがゼロというタイミングが発生。

こいつですよこいつ 可愛いやつめ

曜変天目茶碗。今回も独占して鑑賞できる空白の時間ができた。円形である茶碗に正面などないけれど、個人的には外側に釉薬の斑点が2個だけある側を手前にした向きから覗き込むのが好きで、内側に斑点が縦に連なっている箇所が目線の下になることでより宇宙に吸い込まれるような、水中に沈んで行くような感覚に陥る。偶然によって生まれた深い青の色彩と無数に連なる釉薬の斑点が美しい。外側の斑点はよくみると2個ではなくて2個半くらいある。いずれにしても結果的にしばらく一対一で対峙することができたのはラッキーだったかもしれない。

入手した小彌太も私用で使うことはなかった

最後は中央のホワイエで映像や目録を眺めながら休憩しつつ、混雑が緩和してきた展示室1へ。実は曜変天目茶碗だけでなくこちらも今回の目的の一つ。なんといっても大名物と呼ばれた茶器である「付藻茄子」に「紹鴎茄子」の展示。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった天下人の手を渡ってきたこれらは大坂夏の陣で焼失しかけたものの、焼け跡から探しだされて藤重家によって破片から修復されたという歴史を持っている。なかでも付藻茄子は岩崎彌之助が給料を前借りしてまで購入し、あとで兄の岩崎彌太郎にこっぴどく叱られたというエピソードもある。さらに徳川家や伊達政宗の手に渡った「利休物相」も紹介されている。

兄に叱られた彌之助

書では国宝の「和漢朗詠抄」があり、美しい唐紙にデザインされた紋様や金や銀で施された絵を下地に、漢字と仮名書きが添えられているという、絵と書で和漢を示しているものが見られる。刀剣ではなんといっても古備前高綱。織田信長から滝川一益へと拝領されたという由来のある刀剣で戦国時代を生き抜いた名刀である。隣にはやはり戦国武将である直江兼続の愛刀だった後家兼光も展示されている。茶器といい刀剣といい戦国時代の息吹が強い部屋である。

これはホワイエに展示してある玉器

トイレはウォシュレット式。こちらは美術館内にはなく明治記念館との共通として扱われているので注意が必要。注目度が高い展覧会なので行列に従うと混雑に巻き込まれてじっくり鑑賞できなくなるため、冷静に混雑状況を確かめながら臨機応変に展示の順番を調整するのがベター。ホワイエ内にもいくつか特別展示として陶器や玉器(石を掘り出して作られた工芸品)が展示されている。

タイミングによっては人の群れを避けられる

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