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ビジュツカンキライ

私は美術館が好きだ。
頻繁に行くというわけではないけれど、最近は年に数回のペースで訪れている。

しかし幼少期の私は、美術館という場所が大の苦手だった。とりわけ現代美術館という空間が嫌いで、当時の私にとって、あの無機質かつ不自然な場所にいることは苦痛でしかなかった。現代美術の作品も、全然面白くないと思っていた。イミわかんないし。

もしかすると、子どもの頃の私にとっては、「わかる」ことがエラくて、「わからない」ことは悪だったのかもしれない。

たまに両親に連れて行ってもらうことがあっても、ひどく愚図ってしまうことがほとんどだった。またそのせいで、私の両親は作品をゆっくり鑑賞できないことが多かったそうな(よくもまあ懲りずに連れて行ったな)。

私が小学校を卒業する頃には、姉が引きこもりがちになったこともあって、家族で外出することはほぼなくなった。そのため、私が嫌々美術館に連れて行かれる、というようなことも次第になくなっていった。

そんな私に転機が訪れたのは、大学生になって最初の秋だ。
当時品川にあった原美術館へ、当時仲の良かった学科の友人と一緒に行こうということになったのである(しかもなぜかおそらく、私から提案した)。

当日。ちゃんと楽しめるかな、などと不安に思っていたが、それは杞憂に終わった。私は入館してすぐに、「え、美術館ってこんなに素敵なところだったの!?」と心の中で叫んだ。それはそれはもう、素晴らしい空間だった。

前年に亡くなった佐藤雅晴の作品の数々が、窓のそばでひとりでにドビュッシーの「月の光」を奏でるピアノが、今でも私の脳裏に焼き付いている。

そんなこんなで、私は苦手だった美術館を克服した。克服したというか、大学生になるまでに、現代美術を楽しむための土台が出来上がっていたのだと思う。

これ以来、私はあちこちの美術館へ出かけるようになった。両親から「昔はあんなにぐずっていたのにねえ」と笑われるほどだ。

次はどこの美術館へ行こうかな。

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