岡田斗司夫が絶賛していた「あのこは貴族」。
同じ原作者（山内マリコ）の「ここは退屈迎えに来て」を読みたいリストに入れていたのもあり、さっそく配信で観たけどすごく良かった。
近年は状況や感情を全て説明するため漫画も映画もセリフ過多になっていると言われるが、本作はできるだけ映像で語ろうとしてるのが小気味良かったな。

参考図書

華子が居酒屋へ行く場面では汚いトイレが映し出され、次のカットではタクシーに乗ってさっさとバックれる。アニメやTVドラマなら
「どうしてお嬢様のワタクシがこんな不衛生な店に呼び出されなきゃいけないのよー！」
と叫んでいただろう（そして予告編で決めゼリフとして使われるのも目に見えている）。しかし本作ではセリフどころか表情すら最小限。

（汚いトイレが出てくるのはもしかしてトレインスポッティングのオマージュ？だとしたらThe Worst Toilet in Tokyoだろうか）

理解力の乏しい人は付いていけないのでは？と思ったら案の定「キャラの描写が不十分で退屈」というレビューがあった（そのうちこういう人向けに解説音声を付けた特別版とか出るのかも）

階級社会

イギリスのように貴族や爵位はなくとも、どの国にも階級社会がある。
平等で民主的なアメリカも階級が分かれているが「遅れたイギリスと違ってアメリカは平等」という建前を信じているので「アメリカに階級社会がある」という本を書いた著書は「まるで動物虐待者を見るような蔑みの目を向けられた」と書いていた（うろ覚え）。

参考図書

この本ではアメリカの階級を7つに分けていた。

超上流階級
上流階級
—————————
上層中流階級
中流階級
—————————
上層労働者階級
労働者階級
—————————
貧困層

この分類に従うと華子（門脇麦）が上層中流階級で美紀（水原希子）が労働者階級かな。
映画を観る前は「華子は貴族だなぁ…」と美紀がうらやむ話かと思ったら、中流の上層の華子がさらなる上流階級の結婚相手との壁に悩む筋書きだった。

階級間の確執を描いたわけではない

庶民向けグルメのお店に連れて来られたお嬢様が
「こんな美味しいもの生まれて初めて食べましたわ！」
と下層民の文化に衝撃を受ける描写を漫画で見かけるが、あれこそ文化的に乏しい人が考えた虫酸の走るファンタジーじゃなかろうか。

実際に育ちの良い女性が格下のお店に来たけど、批判こそ口にしないものの愛想笑いをして適当なことを言ってやり過ごしていて非常に気まずかった（お嬢様なりに空気を壊さないように喉が渇いてたからジンジャーエールがありがたいとか言ってたけど）。

本作ではお嬢様が下層民を見下すこともなく、下層民が上流階級を妬むこともない。
お嬢様が「こんな美味しいもの初めて食べましたわ！」と叫んで庶民の自尊心をくすぐる事もない。階級はこの社会の空気・秩序・仕組みであり、その中で誰もいがみ合わない優しい世界の話。悪役が出てこないのも小気味よい。

笑った小道具

ここはファッションのブログなのでその話題も書いておこう。

華子がお見合いする相手はコミュ障の変人。

社交性の無いナイーブ（原語の「世間知らずのバカ」の意味）なキャラを表現するためにサイズの合ってないスーツ姿だったけど、ここまでサイズ合ってないのは面白すぎる。就活モノAVのエキストラでもここまでひどいのはいねえぞ！？
スーツ屋の店員なら絶対に購入を引き止めるレベルだけど借り物なんだろうか…
よく言われる「スーツ姿が怪しいので職質したらオレオレ詐欺の受け子だった」というのはこのレベルなんだろうな。

美紀の弟がハチロクのカスタム車なのもポイント高い。こんなの今や九州くらいかと思った。富山のヤンキーもこんな車乗ってるんかいな？

カーボンボンネット。ダッシュボードの白いふさふさ。
鬼キャンなら完璧だった。

本作が面白かったので翌日は「ここは退屈迎えに来て」を観た。
こっちは本作ほどスタイリッシュではなかったが別の良さがあった。見比べるのも面白い。
そういや福岡の大牟田市（炭鉱が閉鎖されて街全体がさびれてどんよりしている。成人式の治安が日本一悪い町）で「こんな街を抜け出したい」と言う人に複数会ったけど、九州の「さびれた市町村or福岡市」がそのまま「地方or東京」なんだろうな。九州から出たことないからよくわかんねーけど。

ただ門脇麦は「愛の渦」で乱交クラブに参加する変態女だったので、お嬢様というのが最後までピンと来なかった。
「ここは退屈迎えに来て」でもフラれた腹いせにしょぼい男とテキトーにやってキレる女だったしな。

結論を書くと早く相場で大金つかんで港区でパパ活したいってこと！
乃木坂にマンションを買うつもりなんで、その時はみんなも遊びに来てくれ。
鬼キャンのシャコタンセダンで来てくれたら最高や。