見出し画像

今私の目の前に広がっているものこそ私が学ぶべきもの

 大地の再生の工事にスタッフとして参加しました。
 グリーンピアせとうちが菓子製造販売やリゾート事業を手がけるシャトレーゼホールディングスに売却され、新しくガトーキングダムとして経営されるにあたり、施設内の環境改善の工事を矢野智徳 氏率いる杜の学校に依頼し、杜の学校から私の所属している環境改善グループ「環境再生 いのちの杜 野土ぬづち」に仕事の依頼が発注され、矢野氏の杜の学校と共に工事を行いました。

 私はぬづちの活動において大地の再生の視点と技術を学んでいます。
 しかし、まだまだ練度が低く、的を外してしまいがちです。
 今回、矢野氏の作業を見て、矢野氏の解説を聞き、私の技術の拙さをより痛感しました。

 矢野氏は常に「自然に倣うように」作業するようにとおっしゃいます。
 例えば、今回、土中の水と空気の詰まりを取るために広い範囲に通気浸透水脈を掘りました。

 この通気浸透水脈(以下、水脈)は、溝を掘り、コルゲート菅を埋設し、そこに竹や枝葉などの有機材を組み込んで作ります。
 水脈は自然が山の中で行っている地下水脈や沢の機能を人為的に作ろうとするものです。そのため、通気浸透水脈を作るうえで大事なのは、「自然が行うように」作業するということです。
 水脈に組み込む枝葉は、山で折れた枝葉が雨や風に流されて自然に沢に組み込まれるように組み込む必要があります。人間の理屈で、例えば何メートル間隔に組み込むとか、同じ長さ・同じ太さの枝ばかり組み込む、といったようなやり方は不適切です。山で自然に見られるように、様々な長さや太さの枝が、そして様々な樹種の枝葉が絡み合うように組み込まないといけません。
 そういう理屈は分かっているのですが、いざ私が作業で行おうとすると、つい頭で「自然に倣おう」とすることで、逆に「不自然」になってしまいます。
 しかし、矢野氏の作業ではまさに「自然に」枝葉を組み込むことで理に適った組み込み方がなされます。あまりに何気なく組み込んでいくので、一見でたらめに組み込んでいるように見えるのに、実際はこれ以上ない程的確な組み込み方をされています。
 そして口を酸っぱくして「自然が行うのと同じように」とおっしゃいます。

 矢野氏に見えているのに、私に見えていない「自然」とは何か。それを今回の工事で何度も自問し続けました。

 「自然」という言葉は知っている。では「自然」とは何か。そう問い続けていると、ふと「今私の目の前に広がっているものそのものだ」と気づきました。
 スコップを使って掘った土。工事期間中、雨天のため低いところに溜まって水たまりになる水。現場で私の目の前にあるものそのものが「自然」であると気づきました。

 「自然」は人間と違って、思考して動きや働きを変えません。
 水は低いところに流れて行きます。「今日はちょっとハイテンションだから高いところに流れるわ」ということはありません。
 植物はその種類の植物が生えるべきところに生えます。湿気が多い場所には湿気を好む植物が生え、乾燥している場所には乾燥に強い植物が生えます。
 「自然」で起きている現象は、そのように全て一定の法則に従って生じます。そこに人間の思考や作為は影響しません。人間が望む結果を得たければ、人間がそれらの法則に従って自然に関わらなくてはなりません。
 水を望むところに引き込みたければ、望む場所を一番低くして、その道筋につながるように水のある所から溝を掘るしかありません。
 植物の相を変えたければ環境(湿度や水や空気の通り、温度など)を望む植物相の生息できる環境に変えるしかありません。「この植物が生えてほしい」と思っても、環境に合わない植物の種を蒔いたところで、枯れてしまいます。
 「自然」には人間の意志は関係しませんので、法則に従って作業するしかありません。

 そのことに気づいた私は次に「ではその法則とはなんだ」と思いました。
 法則とは、具体的には「水は低いところに流れる」といったようなものです。しかし、言葉でそのことを分かっていても、実際に作業をして望む結果が得られないこともあります。それは、その法則を私が現実の場において理解できていないからです。言葉面だけ、理屈だけで理解したつもりになっているからです。
 そう思い至った私は、実際の現場において法則を体得しないといけない、と思いました。実際の現場において起きている全ての事象が、法則に従って生じています。そのために現場で起きていることを観察すれば、現場で起きている事象を成り立たせている法則を理解することができるはずです。私が学ぶべき法則は、私が作業しているまさにその場において常に既に現れているものなのです。
 
 「今私の目の前に広がっているものこそ、私が学ぶべきものだ」
 今回の工事において、私が学ぶべき「自然」というものが初めて具体的に分かってきました。


 本日は以上です。最後まで読んでくださりありがとうございました!
 スキやコメントいただけると嬉しいです。