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NARUKAMI Notes 004 『なれのはて』

加藤シゲアキ
『なれのはて』
講談社, 2023.10

加藤シゲアキ。
アイドルグループNEWSに所属しながら執筆活動を続け、2021年には『オルタネート』で吉川英治文学賞を受賞。
そうは言っても所詮はアイドルでしょ?話題作りじゃないの?
そんな偏見を持ってしまっていたことは正直なところ否定できない。だから書店で長い間平積みになっていた本作についても全くノーマークで、第170回直木賞にノミネートされたときは、何故?と思っていた。
しかし、読み始めてみたところ、自分の不見識を大いに恥じることになった。ちょっと文学をかじったアイドルが片手間に書いたオシャレ小説などでは断じてない。ゴリゴリの文芸ではないか。大変失礼いたしました。

主人公はテレビ局員。元々は報道部門で活躍していたのだが、ある事情で報道を離れイベント事業部へと異動となる。そこで作者不明の一枚の絵と出会い、その謎を追う中で、ある「家族」の秘密と、この国の隠された歴史に触れることになる。
そして探し求める真実に当てられた光は自分達にも反射し、これまでの行いや家族との関わりを見つめ直すことになる。

地道に情報を集め、推理を重ねていくミステリー展開は次が気になりページをめくる手を止めさせない。
人物造形も上手く、登場人物の生き方や信条が伝わってくる。
全体として「しっかりとした作り」という印象が強い。

アイドルだからこそテレビの現場にも近く、生のテレビマンを見ることもあったろうし、仕事の中で知り得たこと、感じられたこともあったろう。いわばアドバンテージだ。
本屋の平積みは話題作りだけではない。
王道の文芸といえる作品だった。

第170回直木賞候補作品。
今回は6作品のノミネートで、読んだのはまだ1作品だが、これはくるかもしれないという感じはしている。

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