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何不自由ない暮らし

 つまらない人間だ

 と、そんなことを言われても、私にはこんなふうにしか生きられない。

 夜風を受けて家路に向かう道中は、きらびやかさとは無縁の、暗い、静まり返った、眠るような道だ。私が帰るときにはたいてい、誰ひとりいない。

 まぶしいほどの光を放ち、いつまでも騒がしさのある、眠ることのないそんな街は、もしかしたら楽しさや刺激に溢れているのかもしれない。けれど、私にはどうにも肌に合わない。

 この静けさのほうが、私は好きだ。何者もいない、それでいてすべてを平等に包む、この闇のほうが。

 世間から見れば、私はたしかに、つまらない人間なのかもしれない。人付き合いもよくないし、話しもできないし、たいした趣味もなく、家でのんびりするくらいしか時間の潰し方を知らない。

 それでも、私は、それでいい。

 ご飯を食べれて、仕事に行けて、家に帰ってのんびり過ごし、ゆっくり眠る。

 何不自由ない。不足もない、不満もない。

 いつまで、こうしていられるかはわからない、けれど。少なくても、今、まだ、体の動くうちは、これでいい。

 さぁ、家に着いたら、お風呂に入ろう。ご飯を食べよう。そうして、のんびり過ごそう。ゆっくり、布団に、入ろう。

 誰にも何も刺激を与えない、冷たさも、温かさもある、闇に飲まれるように、家に向かって、今日も歩いている。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。