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灯火のような ひと色展

 柄にもなく落ちこんでいるような先輩の姿を見て、思わず声をかけたくなった。

 けれど、なんて声をかけたらいいのかもわからず、余計なお世話ではないか、という気持ちも拭えず、なかなか声をかけられずにいた。

 そんな私のもじもじとした姿に気がついたのか、先ほどまで沈んでいた表情を明るくさせて「どうしたの?」とかえって心配をさせてしまった。

 私は慌てて

「い、いえ……。先輩のほうこそ、なんだか、落ちこんでいるように見えますけれど」

 ついに口にしてしまう。
 
 そっか。と、ぽつり、つぶやくと

「心配させちゃったね、私もまだまだだ。ありがとう」

 と、驕りもなく笑顔で応えていた。

 狼狽するのも束の間、よし! と、先輩はすぐに椅子から立ち上がると、

「さて、切り替えた。さあ、残りの仕事をしよう」

 いつもの明るい、快活な、力強い、それでいて相手を見るやさしさのこもる声色が響いた。

 これほどまでに、先ほどの沈んだような気持ちをぱっと切り替えて、変わらない姿勢を見せてくれる先輩の姿に自然と尊敬の念が湧く。

 灯火のように導いてくれるその安心感と、まばゆいばかりに美しい微かな色彩の気配が漂い、その中心で輝く先輩の背を追って、私も力強く足を踏み出してみた。

 イシノアサミ さんの企画に参加させていただきました!

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。