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凝固障害が併存する場合の腰椎穿刺のリスクは?

 出血リスクがある患者でも腰椎穿刺に伴う血腫のリスクは低い。

Association of Lumbar Puncture With Spinal Hematomain Patients With and Without Coagulopathy
JAMA 2020 Oct 13; 324:1419. (https://doi.org/10.1001/jama.2020.14895)

 腰椎穿刺を検討するときに、『この人は血小板が低いから…』『この人は抗血小板薬を内服しているから…』と腰椎穿刺に伴う硬膜外血腫、脊髄血腫のリスクを避けて穿刺を見合わせることがあるかもしれません。

 本論文はデンマークの医療データベースを用いて、腰椎穿刺、髄液検査を受けた人を対象に分析したコホート研究です。凝固障害の定義は、下記の3つの検査所見です。

1、血小板数<15万/μL 
2、PT-INR >1.4
3、APTT       >39秒

 主要アウトカムは手技・検査後30日以内の脊髄血腫の発症で評価しました。副次アウトカムはtrauma tap(腰椎穿刺時の血液混入で、赤血球数>300*10⁶/Lで判定した。)です。

【結果】
 64730人の患者、83711回の腰椎穿刺で解析しました。
 血小板減少は7875人(9%)、PT-INR延長は1393人(2%)、APTT延長は2604人(3%)に認めています。
 30日以内の脊髄血腫は凝固障害のない患者で0.20%、凝固障害がある患者で0.23%でした。
 なんと血小板数、APTT、PTいずれもこの研究では脊髄血腫のリスクにはなっていなかったのです。

 下記図表は、凝固障害、血小板減少、PT-INR、APTTが正常か否かで穿刺後30日以内の脊髄血腫の発生リスクを表していますが、ほとんど差がありません。

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 脊髄血腫の独立したリスク因子は、性別と年齢でした。 
 男性では女性と比較して調整後ハザード比 1.72(95% 信頼区間, 1.15-2.56)です。年齢別では、0-20歳と比較して、41-60歳で調整後ハザード比 1.96(95%信頼区間;1.01-3.81)、61歳~80歳で調整後ハザード比 2.20(95%信頼区間;1.12-4.33)でした。

 注目すべき点は凝固障害の程度や原疾患(感染症や神経所見、血液疾患)と脊髄血腫のリスクに関連がなかった点です。

 ただし、Trauma tapはPT-INR、APTTが高い場合により多く発生しました。

 凝固障害の原因、値別のリスクの詳細は下記表を参考にしてください。論文の考察で触れていますが、凝固障害のうちPT-INRが高い14%、血小板減少の29%が補正のための治療を受けていますがその詳細は不明です。

 その他、本研究の限界として、そもそも出血リスクが高いと判断されたケースは腰椎穿刺を行っていないこと、腰椎穿刺を何度か行ったが失敗したケースはデータに含まれていません。

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【結論と個人的感想】
 本研究からは、診断・治療のために必要と判断した場合は、凝固障害を意識しすぎて穿刺を避ける必要性はあまりない印象と感じます。
 今回の研究ではPT-INR3以上やAPTT≧61の症例で脊髄血腫はなかったのですが、補正治療の背景は不明であるため、結果だけを鵜呑みにして、出血リスクが高い症例に腰椎穿刺を行い、合併症として脊髄血腫、硬膜外血腫を起こした場合はトラブルに発展する可能性があります。(合併症を避ける手段を講じたかどうか)
 リスクが高い場合は、補正できる範囲の補正治療を含め、医師・患者・家族で意思決定相談を行う必要があります。

 個人的には、腰椎穿刺や脊髄麻酔等が必要なら行う。脊髄血腫のリスクは0.2%前後で決して高くない。多少の凝固障害があっても、合併症の頻度はさほど増えないが、補正できる凝固障害は補正する。という姿勢には変わりないと思います。
 

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