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短編小説:「ポイントを貯める女」※加筆・修正ver.

 とある女はポイントを貯めるのに凝っている。

 近所のスーパーに行けば、電鉄のポイントカードを提示し、会計はスマホ決済アプリで行う。カードとアプリで、ポイントの二重取りができると言う訳だ。

 買い物に行けば必ずクレジット決済をする。ここもポイントなのだが(駄洒落ではない)、実際にはクレジットカードではなく、プリペイドカードかデビットカードを使用する。クレジットカードと同じように使用できるので、VISAかMASTERの表示がある店では大抵問題なく使える。利用分の0.5%が還元されるので、クレジットカードの還元率には及ばずとも、現金を使うよりは得なのだ。女は小心者なのでクレジットカードを使うことが出来ない。一ヶ月前に使った金額をのちに請求されるのが、どうしても気持ち悪いのだ。塵も積もれば山となる、思いもよらぬ金額に膨れ上がっていることもあるのだ。

 ふと、女の頭の中にある考えが駆け巡った。ポイントを貯めることを全力で肯定する心の声、すなわち魂の叫びである。ポイントを貯めることで、消費者は安く買い物が出来、店側はまた来店してもらえる。ポイント効果で購買意欲が刺激され、日本経済が活性化。 相互がWin-Winな関係−

 ある日、これまでに獲得したポイントを一体何に使うか考えていたら、時計の針は深夜を回っていて若干引いた。ポイントの使用方法について悩んでいた時間を、他の何かに使った方が価値があったのではないかと自問自答した。

 年末年始に帰省した時に、実家に一円玉が転がっていて、母親にそれを指摘した。「一円玉、転がってるよ。ピピが食べたら危ない。」ピピとは女の愛犬の名である。「あーごめんごめん、その一円あんたにあげる。」女の母が言う。女、「いや、一円なんかいらないよ。役に立たないし。」母、「あんたアホじゃない。一ポイントと一円一緒だよ。ポイントが好きなだけなんじゃないの。」

 まさしくその通りである。

 一ポイントの価値は一円と一緒なので、女はお金が好きなのではなく、ただポイントを愛していたことになる。役に立たないと言われた一円が、少し可哀想である。

 そして女は今日もスーパーのポイントカレンダーを見ながら、駅で誰かを待っている。

【終】

#ショートストーリー #小説 #詩




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