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140字小説

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さくっと読めるのでおやつにどうぞ。
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#スキしてみて

絲

運命や縁なんて幻想だと思っていた。
だけど今は違う。
それを具現化した君がそこにいる。

僕らの糸はほつれていた。
ぎりぎり切れずにいた最後の一本をそっと手繰った先に今があって、何も当たり前なんかじゃないことを僕らはもう知っている。
だから今日もまた、当たり前みたいに「幸せだね」と笑うんだ。

彼女が作ったLINEのアルバムを初めて開いた。駅前、食事、映画の看板に道端の花まで余さず切り取った写真達。この日俺が撮ったのは気になったスニーカー一枚で、別れたのはその十日後だった。最後に彼女の笑顔を見たのはいつだろう。五年振りに見る彼女の字は往復葉書の上で幸せそうに泳いでいた。