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半透明

雪が降りそうなくらい寒いこの季節は、小さなミスさえ大きくなってしまうので嫌いだ。
人肌が恋しくなるこの季節は嫌いだ。
電飾で電気代の無駄遣いをするこの季節は嫌いだ。息が白くなって幻想的に見えるこの季節は嫌いだ。
冷たいビールを片手にこの季節に反抗した。
公園でアルコールを摂取するこの時間は、浄化にあたる。
すぐ冷めるものは要らないので、恋は保温機能があるものがいい。
出来れば甘ったるいものより、栄養満点なスープがいい。
そんなことを考えながら呑むビールは苦くて甘い。泡に震える。
大体、余計な荷物になる癖になんで人は恋なんかしたがるんだろう。
玉入れみたいな愛情表現に、氷のような嫉妬、とてつもなく醜いもののような気がする。でもきっとそれ以上に暖かくて近い。
寒さが心地よくなるようなものなんだろう。
マフラーやコートだって、荷物になるけれど、いつも私を楽しませてくれるし暖めてくれる。恋人もそんなものなのかもしれない。
この季節が冬で、寒くて、良かったと思えるようなそんなもの。

考えがある程度まとまると、家に帰る。
いつものルーティンだ。
そして、喫煙所は見つけ次第入る。
深夜3:00に25の女がなにしてんだろう。
メイクもよれて、髪の毛の巻きもとれて、朝はこんなふうに迎えるべきじゃないのに。
「久しぶり」
声をかけてきたのは暫く会っていなかった先輩だった。
「お久しぶりです。元気でした?」
先輩に会った時用に笑顔を練習していてよかった。可愛い顔をしている自信がある。酔ってるけど。メイクを直したい気持ちでいっぱいだけど。
「元気だよ。そっちは?」
「ぼちぼちですかね」
「そっか」
会話が途絶える。先輩とはいつもこんな感じだから、何も気にしない。
よく沈黙が苦手って言う人がいるけれど、私は全くそんなことない。むしろこの無言の空気感が好きまである。
「先輩」
「ん?」
そう呼ぶと首を傾げてこっちを向く先輩。
「なに、どうしたの」って笑いながら近づいてくる。
「私、寒いの苦手なんで恋人を作ろうと思うんです。できれば保温機能が抜群な」
「駄目だよ」
先輩が吸っていたタバコを捨てて、もっと近づいてくる。
「え?」
「そんな理由で恋人なんて作ったら駄目」
「最後まで聞いてください」
「へ?」
先輩の口から怠けな声が漏れた。
「私は先輩を恋人にしたいんです」

先輩にだったら、私は透明になれてしまう。

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