空は青くて澄んでいるのに、空の下の私たちは真っ黒に住んでいる。 その日は友達の応援に行った日だった。 ドリブルの音が鳴り響き、時々ザザッとシュートの音がする。 みんなが鼓舞し合う声もなんだか、かっこいいけど、やっぱりクソ熱いや。 ここにいるみんなはこんな熱い世界で青春をぶつけて闘ってるんだ。 何の為に頑張って、誰の為に、結果を追い求めてるんだろう。 「悔しいって感情が焦りを生み出して気持ち悪い」 そう泣きながら話すのは、橘かえで。 バスケの試合に負けた直後の一言だった。
雪が降りそうなくらい寒いこの季節は、小さなミスさえ大きくなってしまうので嫌いだ。 人肌が恋しくなるこの季節は嫌いだ。 電飾で電気代の無駄遣いをするこの季節は嫌いだ。息が白くなって幻想的に見えるこの季節は嫌いだ。 冷たいビールを片手にこの季節に反抗した。 公園でアルコールを摂取するこの時間は、浄化にあたる。 すぐ冷めるものは要らないので、恋は保温機能があるものがいい。 出来れば甘ったるいものより、栄養満点なスープがいい。 そんなことを考えながら呑むビールは苦くて甘い。泡に震える
だらだらと甘い香りに誘われて、 躊躇なく重なる唇に僕らは埋まっていた。 8月某日。 それはとても暑い日だった。 ポニーテールに揺れるピアスの彼女。 RPGで言えば、MPを大量消費するであろう言葉。僕はその日彼女に初めて使った。 「結婚してください」 飾りのない、気持ちが先走る。 普段あまり感じない間がとてつもなく長く感じる。 彼女は微笑みが溢れない程度のギリギリまで口角を上げて言った。 「最初で最後の結婚にしてください」 包み込み合う身体たちはまるでそれを求め
そのまた昔、眠れない男がいたと言う。 そいつは結構な長身で、毎晩ワラビを採りに森へ出掛けていた。森についた男は山菜をふんだんに使ってその場で調理をする。 ある日の晩、その男は熊に遭遇した。 初めて、この男は静かに眠りにつくことができた。
なんでも好きになれてしまう。 辛い仕事も、嫌な先輩も。 好きなところを見つけ出すことが出来る。 便利な性格で助かる。 仕事はしんどくならないし、人間関係も苦労しない。愚痴もこぼさずに済む。 ただ、恋愛においてはこの性格は面倒だ。 恋愛対象で好きなのか、尊敬で好きなのか、愛なのか恋なのか、自分ではわからない。 「それってみんな好きってこと?」 「うん、なんか嫌いな人いないんだよね。この言動嫌だな、みたいなのはあるんだけど」 親友と話すこの時間が、たまらなく好き。 花火が映えそ
告白はタイミングが大事だと聞く。それとプロポーズも。 僕は自分にホットコーヒーを、彼女にカフェ・オ・レをいれた。 「無理に全部飲まなくていいから」 「じゃあ量減らしてくれてもいいのに」 「そしたら足りないって言うじゃん」 この会話が何度繰り返されたんだろうか。 何度、彼女が家に来て他愛もない会話で終わったのだろうか。何度後悔しただろうか。 思い返すといつも思う。今日こそは、と。 そんな事を考えながらコーヒーを啜ると、今日は彼女の方から話を振られた。 「私、実は今日報告があ
「夏目先生の文章って稚拙で、面白くないんですよね」 誰にもこんなこと言われていないのに、脳内で聞こえた。手が震える。 「あ、もう書けないかも」 一瞬一瞬が文章になって、その結果自分の世界が広がっていて、降ってきたものをそのまま乗せていた。 それが否定されれば、私の世界がつまんないんだ。一生懸命文字に起こしたところで誰も読んでくれないし、面白くない。 もてはやされても、それが実力と伴っていないから、皮肉に感じる。 でも、褒められたい。我儘かもしれない。 「夏目先生、世
ガサツ部に入部した4月。 それから1年が経った。まだ慣れない。 数々の食べ物を腐らせ、冷蔵庫がカビの森と化している。そんな部室。 床に蓋を無くしたペットボトルたちが散乱し、先輩が購入したと話していたテーブルも壊れてそのままだ。 「あ、おはようございます」 引き気味に挨拶する部員は集まるとすぐに購買へ向かう。 「先輩、ここはなにする部活なんですか?」 新入生の女が僕に問いかけた。 ただ、僕もわかっていない。逆に問いたいくらいだ。 「この部で何したい?」 聞き返すと戸惑いを全面
「起きた?」 真上から降る言葉に私は咄嗟に疑いのフィルターをかけた。 「誰」 「覚えてねえか」 そう言う彼はため息を零した後、続けた。 「拾った。捨て猫みてえにボロボロでか弱い女が泣いててほっとける訳ねえだろ」 「お前の過去も知らないし、どうしてそうなったかも聞かない」 彼はこちらに話しているにも関わらず、キッチンへと向かう。 「お前も来い。仮に辛い過去があったとしても、もう変えてあげらんない。だから俺と一緒に楽しい思い出なり作って、その過去薄めればいいだろ」 彼のい