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大切なあなたにケーキを

友だちと会った帰り道。
たしかこの辺りには、おいしいケーキ屋さんがあったはず。まだやってるかな?と検索して、営業時間ギリギリなことに気づいて慌てて走り出した。
今日は家で彼が待っている。おいしいケーキを彼と一緒に食べて、笑顔になりたい。喜んで、くれるかな。

かつてわたしが付き合った人たちはみんな、特別な日でもないのにケーキやアイスを買ってきてくれた。

わたしはそれがとても嬉しかった。日常の小さなサプライズ、それは愛の証だと思っていたから。
甘いものに目がないわたしはいつも笑顔でお礼をいう。そしてとびっきりおいしそうに食べる。それでいいと思っていた。わたしは彼にケーキを買うことはないけれど、他のところで彼に愛を注ぐことができているのだから、与えられて当然だと。
けれどいつのまにか、ケーキは姿を見せなくなって、しだいにふたりの間の空気は冷え切って、恋も終わってしまっていた。

どうして、大好きなひとからケーキが与えられなくなったのか。ずっとずっと、わからなかった。人の気持ちは移りゆくものだから仕方ないと、諦めがいいふりをして。運命じゃなかったんだと、無理矢理言いきかせて。

ケーキが姿を消したのは、わたしが愛を注いでいなかったからだと、気づくのにはずいぶん時間が必要だった。

あのケーキたちは、わたしを喜ばせたいという純粋な気持ち故のもの。けれどわたしは、過去に好きだったひとの笑顔のために、何かできていたんだろうか?
ケーキどころか、なんの愛もあげられていなかった。そんなんじゃ、恋は続かない。当たり前のことだ。

申し訳なく思った。
過去にわたしと過ごしてくれたひとに。
今からでも遅くない思った。
いまわたしを愛してくれるひとに、愛を注ぎたい。ケーキを、買って帰ろう。

何もそれだけが愛の証なわけではないけれど、どうせならふたり一緒にハッピーになりたい。ふたりともおいしい食べものやケーキが好きだから、これはぴったりの方法なんだ。

だからわたしは、今日もケーキを買って帰る。
有名なお店のケーキでも、地元のおいしいお店のケーキでも、コンビニのケーキだっていい。あなたが喜んでくれるなら。

わたしが幸せそうだと嬉しい、とよく言ってくれるよね。わたしもね、あなたが幸せそうだと幸せだよ。

でも結局、おいしいケーキを食べて一番喜んでいるのがわたしだってことは、秘密ね。

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世界はそれを愛と呼ぶんだぜ