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「感覚拡張による感性拡張」について

久しぶりのnoteです。
社会人になって早3年、ありがたいことに楽しい日々を過ごしていますが、やっぱり大学時代の研究テーマを改めて探求したい、社会と接続させてみたいという気持ちが大きくなってきました。

私は、大学・大学院で「感性工学」をいうものを学び、人の感性(こころ)を中心に捉えたものづくりを志してきました。
ここに研究テーマを記すことで、当時の自分の思考を思い出すと同時に、
周りの方と繋がって思考を深めるきっかけになったり、抽象具象を行き来しながらゆくゆくは社会と接続したプロジェクトを起こしていけると嬉しいです。


はじめに:大事にしたい視点


私は、旅が好きです。
物理的に移動する海外はもちろん、国内でも、身近な知らない人と話すことも、未知の食べ物に挑戦することも、犬の視点になって考えることも、全部旅と言えるのではないか、と思います。

普段とは違う世界に飛び込んで、そこの空気や人の生活に触れて、文化を少し肌で感じて…そうやってまだまだ知らない世界に出会うことが、なぜこんなに面白いと思うのか?
それはおそらく、そういう世界に触れることで、
感動したり、ハッと気付いたり、胸が熱くなったり、何これ?!と驚いたり、もやもやしたり、「無」になったり…
言葉にはならない、まだ知らない自分の感情や、世界の捉え方に出会うことができるからです。
おそらく私は死ぬときに、心が動く瞬間や体験が、人生でどれくらいできたか?自分と世界を、どれだけ味わい尽くしたか?を振り返ると思います。そして、それができているほど、後悔なく死を迎えることができると考えています。

要は、自分の捉えている世界以外を感じることで、こころが動く瞬間が増え、それが毎日を豊かに生きることにつながると考えています。

私たち人間は、いろんな能力を持っています。
身体を持っていて、五感があって、気配や魂を感じ取れて、論理的思考できて、本能があって、創造することができて、世界を感じとる能力を持っています。
そして、まだまだ感じることができると思うし、まだまだ知らない世界を創造することもできます。
本来持っている能力を携えて、知らない世界に出会って、心が動かされる瞬間を増やすことで、
「この世界は面白い。まだ明日も、生きていたい。」
そう思って日々を過ごしたいし、そうやって世界を楽しみながら生きる人を増やしたいし、明日生まれてくる子供たちそんな希望ある世界を生きれるように、日々活動していきたいです。


探求:感覚拡張による感性拡張


ここまでは大前提となる価値観のお話でしたが、そんな私の探求テーマをお話しします。

修士では「聴覚拡張による内なる感性拡張の研究」をしていました。その時は特に五感の中で興味のあった、聴覚にフォーカスしました。
(今見返すと、図だらけの実にツッコミどころの多い論文でした…)

この研究では、「外部機能拡張装置を用い、耳を澄ませることで(=感覚拡張)、見えなかった世界に出会い、その先に自分の創造性や感受性が広がるのではなかろうか(=内なる感性拡張)」という仮説を持って、研究を進めていきました。

「感覚が拡張されることで、自分の意識が広がる」という点が、一番の重要なポイントです。

音で拡がる、自分の意識の世界

■聴覚と音について
 聴覚に関して、weblio辞書では「聴覚とは、音を感じる感覚のことである。空気中の音波の刺激を受けて生じ、発音する脊椎動物と昆虫にのみ発達している」と定義されている。音とは目に見えない振動である。その振動が音波として空気を伝って耳に届き、私たちはそれを音として認識する。
 音に関して、サウンドスケープ・デザイナーの庄野泰子氏は『耳の感性を覚醒するサウンドスケープ・デザイン』(2011)で以下のように述べている。
 “ふと雨が降ると、裏庭の先にある雑木林の樹々や下草に雨滴が当たる音が聞こえてきて、そこへと意識がつながり、それまでわずか半径1mの範囲しか意識していなかった身体感覚が、一気に10mも彼方に拡張される。このように音は、一瞬一瞬を駆け抜けながら、出来事と私たちを結びつける。”
 この記述から、音は私たちを取り巻く環境や情報など様々な気づきを与えてくれ、私たちと身の回りの世界を結びつけてくれるものであるといえるだろう。

繊維学専攻感性工学分野 加藤なつみ(2018 学位論文)

先行研究

目を閉じて耳を澄ませてみると、私たちの身の回りにはたくさんの音が溢れていることに気づきます。
例えば、
・大木に触れる…脈動から自然の偉大さを感じる。
・赤ちゃんに触れる…小さな体から一生懸命な鼓動を感じる。
・手を繋ぐ…手から伝わるその人の鼓動やあたたかさを感じる。
・マンホールの上に立つ…実は都会の中でも、心を動かす情報がある。マンホールの下の水の流れる音である。目を閉じて耳をすませると、小川のせせらぎのように自然を感じられる。
・風の囁き/波の泡のざわめき…目には見えない自然も波動で感じ取ることができる。

そこからは、いろんな音の探索に出かけました。
目を閉じてマンホールの音に耳を傾けてみたり、足にマイクをつけて波の音を採ったり、炭酸水の中の音を聞いたり、タオルの表面をマイクで擦ってみたり…

さまざまな種類のマイクを用いて聴覚を拡張することで、普段は聞こえなかったり、目では見えないものに対しても、音を聞くことでものの動きを感じたり、生命を感じたり、存在を感じることができ
そして、聞いたことのない音、いつもと違った視点の音を聞くことで、今まで知っていたはずの世界に対して、別の未知の世界に出会ったような感覚になりました。
この体験から、感覚(=本研究では聴覚)拡張をすることで、感性が広がる可能性は大いにあると思い、目的設定や具体的なツールの提案を行なっていきました。


目的の設定

翻って、自分たちの今の生活はどうでしょうか。
街には止めどなく行き交う人や車の音、広告や建物から出る大きな音、スマホやPCの音などが溢れています。
忙しない日常を生きる私たちは、「音楽」を楽しむことはあっても、身の周りの「音」そのものを聴く/楽しむ機会は減っているのではないでしょうか。

しかし日本には、風鈴、鹿威し、茶の湯、和傘、ホトトギスや鈴虫など「音を楽しむ文化」があります。
(鹿威しのように、その場にもともとある「環境の音」を意識化するという意味で、ジョン・ケージの作品『4分33秒』も例に挙げられます)

そして日本人は虫の音や動物の鳴き声、波、風、雨の音、小川のせせらぎなどを「言語脳」である左脳で処理していることが他研究で明らかになっており、自然の音を「声」として捉えることは、日本古来からの自然観に合致しています。
またこれまでの研究の流れから、現代の価値観(=モダニズム)とかつての日本の価値観(=わびさび)の比較を行い、
現代の生活の中で、自然とのつながりや接点を改めてもつことは、現代人にとって、忙しい心の中に余白を生み出すことができるはずだと考えました。

…とここまでで端折っている部分もありますが、
「現代の生活において、普段気付かなかった世界に出会える、そこにある自然の世界との関係性に気づくツールの提案」を研究の目的としました。普段気づかなかった音(=世界)に出会うことは感受性を広げる可能性があると感じたため、それを普段の生活の中で、より多くの人に気軽に体験してもら
うためのツール提案を行いました。

※自然の世界との ”関係性” としているのは、ただそこにある自然の音を聞くだけではなく、その音から「これは鈴虫の声かな、秋だなあ」「濁っていて気づかなかったけど、魚がいるのかな?」などと、自分の身の回りで起こっている・存在している自然に対して思考を巡らせ、知らない世界に出会うことで自分の持っている創造力と感性を広げていくことが、本研究の真の目的であると考えたからです。


長くなってしまったのでこの辺りで一度筆を置きますが、
聴覚のテーマに限らず、世界を普段と違う捉え方をすることによって、心が動く瞬間が生まれたり、創造性が広がることに興味があります。

「感覚拡張」逆に「感覚遮断」、また「身体性」「五感」「創造性」などをテーマに、さまざまな方とお話しできると嬉しいです。



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