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スカッとジャポン

 今日もおなじみの休み時間ならぬいぢめタイムだった。今、僕はトイレの中でフルチンにされて頭から足まで全身トイレットペッパーで撒かれている。

「おい、もう休み時間終わりだぜ。早く帰ろうぜぇ〜」

「でもこいつどうすんの?さっきこいつの学ランと下着全部焼却炉で燃やしちゃったじゃん!」

「あっ、そうだった。燃やしてたわ。でも大丈夫じゃね?だってコイツミイラになってるしチンポとか見えねえじゃん」

「でもやべえだろ!流石にミイラ姿のコイツ教室に連れていっちゃダメだろ」

「大丈夫、大丈夫!俺のパパがなんとかするって!パパにゃ教師どもも逆らえねえよ」

「お前悪すぎるな。将来碌な大人にならねえぞ」

 この高校に入ってからいつもコイツらにいぢめられていた。入学式の時いきなりコイツらが近寄ってきてニコニコ顔で僕たちと友達にならない?なんて言ってきて高校でさっそく友達が出来たと喜んだらこれだった。

 いぢめグループのリーダーは親が大会社の社長だっていう最低のクズ野郎。今僕をトイレットペッパーで巻いてたやつだ。それと仲間のクズ野郎。コイツらも官僚だの都議員だの金持ち連中のクソ野郎どもだった。しかも揃ってイケメンだった。対して僕は見事なまでのもやし男で顔だって痩け切ってホントにもやしみたいなやつだった。

 コイツらはトイレットペッパーのミイラとかした僕を無理矢理トイレから連れだろうとした。僕は全身で拒否したが、大企業のバカボンがヤンキー顔にもほどがあるような表情で、

「あ・ば・れ・た・ら。紙、破れちゃうだろ?お前、フルチンが見えてもいいのか?」

 と脅しつけて来たので、もう何もできずまるで囚われた宇宙人のように奴らに教室へと連れて行かれた。

 トイレットペッパーミイラの僕が教室に入った途端にクラスの連中が一斉に一斉に騒ぎ出した。男連中はけたたましく笑い、女子は悲鳴を上げた。僕はもう泣きたくなった。毎日毎日どうしてこんな酷い目に遭わなきゃいけないんだよ。ああ!見ろよ先生!これはあからさまないぢめだろ?だがこのうんこ教師は見るのも嫌だっていった顔で僕に早く座れ!と注意して来た。

 自分の席に着くと隣の席の女の子がじっと僕を見つめているのに気づいた。僕はハッとした。僕は密かに彼女に思いを寄せていた。いまだに挨拶ぐらいしかしてないけど、それでも彼女が好きになっていた。友達と話している時の眩しい笑顔。一人で物思いに耽っている時の憂いのある表情。最高だった。できたら一度ちゃんとお話がしたかった。お互いの趣味とか、あっ僕だって呪術廻戦好きなんだよとか、五条さん絶対に生き返るよとか、そんなことをたっぷりと語りたいって思っていた。

 その彼女が今僕を憐れんでくれている。目を潤ませてじっと僕を見つめている。いぢめられた僕を憐れんでいるのかい?こんな姿見られたくなかったよ。切なくて涙が出てくる。涙で顔を覆うトイレットペッパーは溶けてしまうけどもう止められないよ。彼女は僕をまじまじと見つめてその桃色の唇を開いた。

「キモっ!」

 ああああ!君も他の連中と同じなんだな!君だけは、君だけは僕を憐れんでくれていると思っていたのに!僕は絶叫して教室から飛び出した。その僕の背中に向かってクラスの連中が一斉に僕を囃し立てた。やべえあんなに動いたらトイレットペッパー破れてフルチンになっちまうじゃねえか!うけるわ!二度と学校に来るなミイラ野郎!次来たら棺桶に閉じ込めてやるわ!

 僕はフルチンで警察に補導されて両親にボコボコ頭を殴られながら家に帰った。惨めだった。こんなに自分を惨めに思ったことはなかった。こんなに誰にも好かれない、いぢめられるだけの人生なんてさっさとおさらばしたいと思った。

 あいつから電話がかかって来たのはそんな夜だった。あいつっていうのは中学時代のたった一人の親友だった。あいつも僕と同じようないぢめられっ子で二人でいつも慰め合っていた。あいつは中学卒業と同時に親の都合で海外に行ってそれっきり交流が途絶えてしまっていた。そのあいつが電話で今日本に帰って来ているんだと言って、そして僕に今から会えるかと聞いて来た。僕はこのあいつの誘いにびっくりした。中学時代のあいつは僕と同じように引きこもりのやつだった。そんなあいつがまさか夜の街に僕を誘うだなんて。

 あいつに呼ばれた店に恐々と入った僕はいきなり目の前に真っ黒に焼けた男がいたので店を間違えたかと思って出て行こうとした。だけど男は僕を呼び止めて俺だよ俺と自分の顔を指差した。えっ、まさかお前なのか?僕はガチムチになったあいつをみて天地が逆になるぐらい、あるいはウンコが小便になるぐらい驚いた。

「なんだよ。そんなにびっくりする事はないだろ?」

「いや、びっくりするよ。君全然変わったじゃないか。どうしてそんなマッチョになったの?アメリカでボディビルでもやってるの?」

 あいつは僕は言葉を聞いて軽く笑って言った。

「いや、ボディビルなんてめんどくさい事はやらないよ。ただちょっとした薬を飲んでてね。これがすごい効き目なんだ。この『モンキーダーリン』って薬は一口飲むたびに男のホルモンが立ち上がってくるんだ。おかげで童貞も卒業したし、今では向こうで白黒黄色誰でもやりまくってる。それだけじゃなくて喧嘩も強くなるんだ。たまたま迷ったスラムでギャングスターたちとバトったんだけどボッコボコのボッコボコにしてやったよ。あっ、薬余ってるからお前に一箱やるよ。お前どうせいまだにいぢめられてるんだろ?これ飲んで俺みたいになっていぢめっ子をボッコボコのボッコボコして女の子にモテるようになれよ」

 僕は友人に涙を流して感謝した。そして家に帰ると錠剤を指定通り四個飲んだ。飲んだ瞬間から野生のパワーがみなぎって来た。これが『モンキーダーリン』の効果なのか!突然腕がムキムキしてきた。胸元もがっちりしてきて男らしい剛毛が生えて来たなんだか雄叫びまで出そうになって来た。

 その翌週の月曜日だった。とある高校からゴリラが出現したと通報があった。ゴリラは大企業の御曹司をボッコボコにぶん殴り、続いてその仲間も同じようにぶん殴った。さらに一人の女の子をウホウホと胸を叩きながら追いかけ回した。呼ばれて来た警官はさっそく麻酔銃でそのゴリラを撃って眠らせたが、彼らはゴリラが手に『モンキーダーリン』という字が書いてある箱を握っているのをみた。なんだと思って箱を手から取ろうとした警官の前に突然ガチムチな男が出て来てこう言った。

「あちゃー、コイツに言うの忘れてたわ。用法の四個ってのはあくまで外人向けで日本人には二個で充分、いやそれでも多いくらいだって」

 そして男は決めポーズでモンキーダーリン!と叫びそしてこう続けた。

「いよいよ日本でも発売されるエナジータブレット『モンキーダーリン!』でも気をつけろよみんな!あんまり決めすぎると本当にゴリラになっちゃうからな!」


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