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《連載小説》おじいちゃんはパンクロッカー 第二十四回:母とサトル

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 露都は彼らの視線に耐えられなくて思わず目を逸らした。全くバカバカしいにも程がある。あんなゴミ音楽を撒き垂らすのにどうしてアンタらそんなに真剣になれるんだよ。こんなもの命懸けでやるもんじゃねえだろ!露都はまだ頭をベッドに押し付けている垂蔵を見た。アンタはバカだよ!エリートの家に生まれたくせにこんなものやるために人生を棒に振ってさ。挙げ句の果てに最期までやり通すってのか!俺には全く理解出来ねえよ!ふざけんな、ふざけんな!最期ぐらい真人間として生きろよ!いくら母さんがそんなアンタが好きだったからってさ。と思ったところ露都はは母の顔を思い浮かべた。よく考えれば母さんいつもアンタの事ばっかり考えていた。今考えれば俺の事なんか二の次だった気がする。アンタがいかにカッコよかったか、アンタがなんか問題を起こした時は息子の俺を放っておいてアンタの事をずっと心配していた。正直に言ってアンタに対してジェラシーみたいなものだって感じた。母さん、俺はどうすりゃいいんだよ。下手したらその場で倒れるかもしれないライブ行かせていいのか?『垂蔵はね、露都が言うように、普段は全くどうしようもない人間だけど、ステージに上がったら全然違うんだよ。あの人はステージで叫んで暴れてる時が一番輝いているの』俺にはあんなものカッコいいなんて全く思わねえよ!うるせいだけじゃねえか!俺に無理矢理あんなこっぱずかしいパンクファッション着させて!とその時だった。露都の頭の中に突然母と観たサーチ&デストロイのライブの記憶が蘇ってきた。結婚してさすがにビデオに映っていた頃のような派手な格好をしなくなった母。その母に手を引っ張られて涙目でライブ会場に入ったんだ。鋲だらけのバカみたいなジャンバー着させられて……。ああ!まさか!サトルが着ていたあのジャンバーは俺がガキの頃に着ていた奴なのか?サトル、そうだ、俺は昨日アイツと垂蔵のライブに行くって約束しちまってたんだ。今更ライブやらねえとか言ったらアイツ絶対また怒るに決まってる。もう父さんとは口を利きたくないなんてまた言い出したら今度はどうやって謝ったらいいんだ。畜生今思い出したぜ!母さん……サトル。ホントめんどくせえ!全くめんどくせえ!

 露都は自分の中に溢れる感情に耐えられず吐き出しまえとばかりに思いっきり舌打ちをした。そしてもうヤケクソになってまだうつ伏せになっている垂蔵に向かってこう言い放った。

「そんなにライブやりたきゃ勝手にやればいいだろ!もう知らねえよ!」

 この露都の言葉に部屋にいたものたちは一斉に唖然とした顔をした。彼らは露都の半ギレ状態で放たれた言葉が信じられないようだった。垂蔵などすっかり体を起こし目を丸くして息子を見ていた。

「お前、今の言葉嘘じゃねえよな……」

「おい、何度も言わすな。さっき俺はライブやりたきゃ勝手にやれって言ったんだ!」

「それに……」と露都はここで言いよどんだが、もうやけくそになって一気に言い切った。

「それに昨日勢いでついサトルにアンタの連れてくって約束しちまったからな。やんねえと思ってたからあの子にどうやって謝ろうかって考えてたけど、やるってんなら……」

 ここまで聞いた垂蔵は意地の悪い笑みを浮かべ、露都にこう尋ねた。

「お前ひょっとして息子と喧嘩したのか。なあそうだろ?正直に言えよ」

「うるせえ!ただの家族サービスだよ!俺はアンタらと違ってよき市民、よき父なんだよ!」

 露都はこう言って懸命に誤魔化そうとしたが、垂蔵の指摘した事がドンピシャだって事は誰の目にも明らかだった。垂蔵は気恥ずかしさに顔を真っ赤にしている息子を見て思いっきり笑った。

 垂蔵は露都からライブにサトルを連れてくると聞かされてすっかり上機嫌になっていた。もう完全にはしゃいでメンバーたちに確かめるかのように言った。

「コイツ言ったよな?今ライブに息子連れてくるって言ったよな?男に二言はねえよな。おい露都、そうだよな?」

「うるせえんだよ、連れていくっつってんだろ!もう黙ってろよ!」

「そうか……」と垂蔵は呟くとしばし目を閉じ。そして再び目を見開いて露都に言った。

「そうなんだな。サト坊来るんだな。で、あの子も来るんだろ?」

「あの子って誰だ?」

「バカやろ。お前の連れのことだよ」

「ああ、そうか。そりゃ来るだろうよ。元々……いや、いい」

「おいおいなんだよ。変なとこで話を止めんじゃねえよ。気になっちまう。まぁいいや。ところであの子母ちゃんに似てねえか?」

「はぁ?何言ってんだ。絵里が母さんに似てるわけねえだろ。どっからどう見ても別人だろうが」

「いや、似てるな。最初にお前の家に言った時、出迎えてくれたあの子を見てすぐに母ちゃん思い出したからな。顔作りは確かに似てねえが雰囲気がどっか母ちゃんに似てるんだよ。やっぱり親子って似たような女を好きになるんだな」

「何が親子だ。俺とアンタは全然違う人間だろうが!気安く人を家族扱いするな!」

 露都は気恥ずかしくてたまらずに垂蔵を黙らせようとしたが、垂蔵は声を上げて笑いサーチ&デストロイのメンバーたちに息子を指で示して笑うばかりだった。しかししばらくして垂蔵は真顔に戻り、露都に向かってこう言った。

「なぁ、露都。サト坊はここに連れて来ないでくれ。それとお前もライブが終わるまでは来ないでくれ」

「いやアンタが言うなら俺は別に来ないが、だけどなんでだ。アンタ孫に会いたいんじゃないのか」

 この息子の問いに垂蔵は一瞬間を置いてから笑顔で答えた。

「やっぱりサト坊の前ではカッコいいおじいちゃんでいたいんだよ。あの子にこんな俺の姿見られたくねえし、お前にもこれ以上惨めな姿晒したくねえし。あの、お前知ってるか?サト坊、俺と会うといっつもデストロイやってくれるんだぜ」

「何がカッコいいだ。子供の言葉を真に受けるんじゃねえ。アンタみたいなジジイがどうやってもカッコよくなるわけじゃねえんだよ。大体アンタ昔から一度だってカッコよかったことなんてなかったじゃねえか」

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