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続・代理取締役三笠武揚

 代理取締役三笠武揚は獄中にいた。社長の大和五十六の代理で逮捕され、そのまま懲役三年の実刑判決を受けたのである。何故彼が実刑を受けたのかはもう企業秘密としか言うことができない。そもそもこの法治国家で社長の代理で逮捕されるなんて事があるのか。とにかく彼は北の寒い網走で他の暴力団の使いっぱしりをさせられながら、ひたすら出所する日を待ちわびていたのだった。

 やがてカレンダーはめくり、とうとう出所の日がきた。大和五十六こと三笠武揚は模範囚として予定よりかなり早く出所する事になった。三笠は面会に来る取締役の連中から大和五十六が三笠武揚として総務にいる事を聞いていた。自分が会社に戻ったら即チェンジというわけだろう。だが、三笠にはその気はなかった。これ以上会社にいいようにこき使われてなるものか。復讐だと思った。自分を代理じゃなくて社長大和五十六とせよ。大和には一生三笠武揚をやらせておけ。彼は取締役連中に向かって堂々と宣言した。どうせ先のない人生だ。もう他人にヘイコラして生きるのはごめんだ。三笠は出所して東京の自社ビルにつくと早速総務に行って自分になりすましている大和五十六をぶん殴った。

「貴様の努力が足らんせいでわしが捕まったのだ!反省せよ!反省せよ!」

 そして自分になりすましていた大和五十六をボコボコのボコっボコにして気分がスッキリするとキャパ行くぞ!と吠えて取締役連中に馬代わりにしてキャパに向かったのである。

「ああ!うんめえなぁ!お前ら今までこんなうんめえ酒飲んでたのか。俺がお前らの下でヘイコラあの腐れジジイの演技をしている時によ!だがまだ足りねえ!アイツの愛人だせ!女優のやついんだろ!昔トレンディドラマ出てたあいつが!」

 三笠はもうヤケクソであった。今までに受けていた屈辱のしっぺ返し、復讐、ざまあみろ!俺を散々利用していた罰だ!やがて女優が現れる。もう下着一枚になっていた。妻以外の女性といたしたことのない三笠は照れてしまう。そんな三笠にかつてのトレンディ女優は微笑んでパンティを……。待ってくれ、もしかしてこれは夢なのか。そういえば今まで悪い夢を見ていた。万年ヒラのうだつの上がらない総務の業務を繰り返しているうちに自分はとんでもない夢を見るようになったのだ。代理取締役への突然の任命。代理取締役として数々の記者会見で会社の疑惑を誤魔化した日々。よく考えれば他人が記者会見なんてできるわけないじゃないか。しかも他人が本人の代理で刑務所にぶち込まれるわけないじゃないか。ああ!全て夢だと思ったところで彼は目覚めた。そこは普段と変わらない自分の部屋だったらよかったのだが、彼は現在社長の大和五十六の代理として網走刑務所に入っているので当然牢屋の中だった。彼は同室のヤクザに蹴り上げられてグッと堪えていつもと同じように謝罪する。

「申し訳ありません。私、大和商事の代表取締役の大和五十六と申します。この度私のいたしましたることは誠意を持って謝罪します!」

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