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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜

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1話につき140字、全7話で完結する連続短編小説。これは地に足をつけられなくなった一人の人間が、暗雲の切れ間に光を見出していく物語――。 ※この物語はフィクションです。 ※無断… もっと読む
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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ①

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ①

①【遠のいた空、近づいた地面】

 今日は天気がいい。こんな日は空に向かって無性に手を伸ばしたくなる。
 しかしそのために立ち上がろうとしたら、体が前のめりに倒れてしまった。
 ここであらためて思い知らされる。そうだ、つい最近事故に遭って下半身不随になったばかりじゃないか、と。

 ……今の自分には地面がお似合いらしい。

↓②へ続く↓

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ②

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ②

②【雲のごとく、あてもなく】

 必死に頭を下げてくる加害者。自分の足をリズムよく動かしてくる看護師。
 まるで何かに向かっている気がしない。雲のごとく、ただひたすら時間が流れていくだけ。
 だからつい、両者に同じ質問をぶつけてしまった。それで地に足つけるようになるんですか、と。

 ……望んだ答えは返ってこなかった。

↓③へ続く↓

↓前回↓

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ③

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ③

③【精神と肉体の形骸化】

 自分には夢があった。何とは言わないが、なりたい職業があった。どうしても地に足をつけなきゃならない理由が確かにあった……ような気がする。
 その夢は今や足と同じで、形だけのもの。ただくっついているだけ。かといって切り離すこともできない。

 仮にそうしてしまえば……親に顔向けできない。

↓④へ続く↓

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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ④

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ④

④【減る可動域、増える可能性】

 昔から親には『地に足つけた人間になれ』と、厳しく言われてきた。
 その親の元へ、実に数年ぶりに帰省する。事故で下半身不随となった、この体で。

「ごめん、地に足つけられなくて……」
「だったらウチの店で手に職つけな。こちとら猫の手も借りたいんだ」
「……ありがとう」
「口より手を動かす!」

↓⑤へ続く↓

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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑤

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑤

⑤【地を軽やかに滑る椅子】

 一組の客が来店すると、自分はコップ一杯の水を出し、注文を取り、厨房の親に伝える。
 それと同時に出された料理を別のテーブル客の元へ運び、そのまま今度はレジに移動して会計をし、「ありがとうございました」と見送る――

 ――どれもこれも車椅子一つで、地に足がついていなくてもできている。

↓⑥へ続く↓

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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑥

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑥

⑥【価値の落とし主と、拾い主】

 車椅子生活も実家の手伝いも、それなりに慣れてきた。
 この頃になると常連客とも親しくなり、やがてその内の一人が客から相方となって、常に寄り添ってくれるようになった。
 朝から働き、夜に店じまいをしたら、自分の膝を枕代わりにして甘えてくる相方……

 ……自分の足には、まだ価値があった。

↓⑦(最終回)へ続く↓

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140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑦(最終回)

140×7字小説 〜たとえ地に足がつかずとも〜 ⑦(最終回)

⑦【求めたものは、空よりも近くに】

 今は上や下ばかり向いているよりも、ひたすら前を向いていたい。
 そして時には横を向いて、手を握ってくれる人の顔を見たい。後ろを向いて、車椅子を押してくれる人の顔を見たい。
 たとえ地に足がつかずとも、この手が届く範囲を大切にしたい。

 だからもう、空に向かって手を伸ばすことはやめた。

 最後までお読みくださり、ありがとうございました! じつはこれまでのタ

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