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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第158回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
微子十八の一~二
 
微子十八の一
 
『微子去之、箕子為奴、比干諫而死。孔子曰、殷有三仁焉。』
 
微子は亡命、箕子は奴隷に身をやつし、比干は諫言して殺された。孔子曰く、「殷には3人の仁者がいた。」
 
(現代中国的解釈)
 
AIは仁者と呼べるるのだろうか。 2023年を振り返ったとき、生成型人工知能 AIGC (Artificial Intelligence Generated Content) 、つまり生成AI元年といわれるに違いない。世界中で「数百ものAIモデルの戦い」が巻き起こった。そしてネット通販も、AIGCの有力なビジネスシーンに位置付けられるようになった。中国メディアは、たった1年間で、口先だけの誇大広告から、成熟した段階へジャンプアップしたと表現している。
 
(サブストーリー)
 
アマゾンやアリババなど最大手は、2023年、販売者向けに多くのAIツールを発表した。出店者は、これらを利用して、翻訳、キャッチコピー生成、商品画像の背景置き換え、リピート発注、ビデオ作成などのタスクを処理できるようになった。。
 
某アクセサリー会社は、新製品を発売する際、デザイン、金型起こし、撮影モデルの手配、撮影、製品テスト、これまで発売に2~3ヵ月かかっていた。AIがコントロールする新しいプロセスでは、納期短縮、コスト削減、在庫リスクの低下により、大幅な経営効率アップを実現できた。
 
また2023年の双11(11月11日独身の日セール)では、「淘宝問問」というツールを登場させた。これは、消費者とAIが対話し、AIが推奨商品を絞り込んでいく。AIが参謀となり、商品選びをガイド、最短で希望の商品にたどり着くという。
 
検索スタイルから、大手ネット通販を分類すると、アマゾン、アリババ、京東は、貨架(商品棚)型、TikTokや快手は、興趣(興味)型、拼多多は、社交型となる。いつの間にか、いつの間にか貨架型は、マッチングによる取引効率が悪い、古くさいプラットフォームになってしまった。実際、TikTok電商や拼多多に、強烈な追い上げを食らっている。守旧派と彼らにとって、AIは救世主、または仁者かも知れない。楽天のネット通販プラットフォームは、さっぱり変わっていない。真剣に考えたほうがよさそうだ。
 
微子十八の二
 
『柳下恵為士師、三黜。人曰、子未可以去乎。曰、直道而事人、焉往而不三黜。枉道而事人。何必去父母之邦。』
 
柳下恵は裁判官になったが、三度罷免された。ある人曰く、「あなたは、まだこの国から去らないのですか。」柳下恵曰く、「道を正そうとして人に仕えると、どこへ行っても三度は退けられるでしょう。道を曲げて人に仕えるなら、父母の国を去ることはないでしょう。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国のネット通販は、米国市場から去るつもりはない。米中貿易は縮小しているが、米国内の景気は上々だ。2023年の年末商戦(11月1日~12月31日)のオンライン支出は、2221億ドル、前年比4、9%増となり、大方のアナリスト予想を上回った。この結果には、中国のネット通販プラットフォームも、相当貢献した。主にAli Express(アリババ)、Shein、Tiktok Shop、Temu(拼多多)の4つである。
 
(サブストーリー)
 
中でもTemuは、リリース後1ヵ月で、米国ショッピングアプリのダウンロード数1位となるなど驀進中だ。
 
Temuは米国市場を開拓するため、フルサポートの管理モデルを立ち上げた。物流、倉庫保管、顧客サービス、アフターサービスなど完全にサポートすることで、加盟店(中国サプライヤー)の越境Eコマース挑戦を促した。拼多多の低価格戦略は、そのまま引き継いだ。
 
広告にも積極的で2023年2月には、米国最大のスポーツイベント、スーパーボウルに1400万ドルを投入した。2024年も継続するという。Temuの2023年GMV(成約総額)は140億ドルが見込まれ、2024年の目標は、300億ドル。
 
TikTokは2023年3月の段階で米国に1億5000万のアクティブユーザーがいた。その力を背景に、ネット通販の小テストを繰返した。8月には、アマゾン、メタから米国人幹部を引き抜く。そして9月、通販サイトTikTok Shopを正式にスタートさせた。この段階でショップ数はすでに1万8000を超えていた。
 
Sheinは、インデックス(ZARA)と、アパレル売上高で世界首位を競う存在となった。その急成長を支えたのは、米国の若い女性たちであった。今や米国ファストファッション売上の半分を占める。現在は米国上場の話題で持ち切りだ。上場した場合、評価額は900億ドルに達する可能性があるという。
 
Ali Expressもプロモーションを強化し、米国への3~5日配送の実現を目指す。しかし、後発のプラットフォーム押されて再強化した、というのが当たっていそうだ。Ali Expressは、2010年に設立、200の国と地域に展開しているが、米国に対しては、アマゾンの本拠地ということで、当初から及び腰だった。通販ネットインフラの不足している国と地域、ブラジル、ロシア、スペイン、東南アジアなど力を入れた。Shein以下の新興勢力に、そんなためらいはなく、米国市場の攻略に全知全能を尽くした。
 
台風の目はTemuである。9月の米国売上はSheinの2倍以上となった。Temuの低価格戦と“クレイジー”な広告戦略により、競合他社はマーケティング支出を増額せざるを得なくなった。Sheinの11月の広告支出は、前年同期の60%増となった。
 
そしてTemuのブラックフライデー売上は、アマゾンに迫ったという。その結果、アマゾンはディフェンスの強化を迫られている。20ドル以下の衣料品手数料の値下げや、TikTokばりのショートビデオ機能の追加も行なっている。あのアマゾンを脅かしているのだ。米国市場から去るどころか、しっかり根付いてしまった。
 

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