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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第132回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の二十一~二十三
 
衛霊公十五の二十一
 
『子曰、君子衿而不争。群而不党。』
 
孔子曰く、「君子は誇りを持つが争わない。交際はしても党派は作らない。」
 
(現代中国的解釈)
 
検索エンジンからスタートした百度は、自動運転技術のトップランナーでもある。Apolloと呼ぶオープンプラットフォームで党派を作り、誇りを賭けて争った。その百度が最近、目立たなくなっているという。前面へ出ないようにしているというのだ。
 
(サブストーリー)
 
2021年、百度は自動運転の3つのビジネスを提示し、これらを“トロイカ”と呼んだ。1つめは、無人走行車両のシェア、2つめは、自動運転技術のソリューション提供、3つめが車の自社生産である。自動運転の商業化は、想定より大幅に遅れ、撤退する企業が相次いでいる。そのため現在は、何を発信してもオオカミ少年に見え、説得力に欠けるのは確かだ。この状況で、本当に自社生産まで進むのかどうか。
 
百度は、同じ2021年、集度汽車有限公司を設立した。百度55%、吉利自動車45%出資である。翌2022年にはコンセプトカーROBO‐01を発表したが、世間は、自動車の販売を目的としない、単なる技術ショウルームと見ていた。しかし、集積した技術を市場に広めるには、生産に乗り出すのが手っ取り早い。しかも従来型メーカーとの違い、ブレイクスルー、突破型であること、スマート化の進展を印象付けたい。そのため昨年6月には、ROBO‐01にバーチャルヒューマンのドライバーを乗せて登場させた。今年2月には「三体宇宙文化発展公司」と提携、年内にカーロボット発表する予定という。
 
EV車業界を見ると、生産設備にまで投資した大規模資産型のビジネスモデルは、みな破産または大苦戦している。百度も、量産を提携先の吉利汽車で行なう限り、自社生産などの色気を出さない限り、成功の可能性は残っている。信頼できる党派でやるべきだろう。
 
衛霊公十五の二十二
 
『子曰、君子不以言挙人。不以人廃言。』
 
孔子曰く、「君子は言葉だけで人を推薦しない。人によって言葉を廃すことはない。」
 
(現代中国的解釈)
 
生活総合サービスの美団は、資本系列ではテンセント系である。しかし、かつてはアリババも出資していた。2015年、美団とテンセント系の口コミサイト「大衆点評網」が合併した。その後、アリババは出資を引き上げ、テンセント系となった。言葉だけではなく、系列をすっきりさせた。これで相手によって、言葉を換える必要はなくなった。
 
(サブストーリー)
 
それから8年が経ち、美団は、アリババ系の支付宝(Alipay)と提携することにした。支付宝の小程序(ミニプログラム、ダウンロード不要)に、「美団点餐」「美団充電宝」をアップした。これまでは当然のように、テンセントのWeChat Payの小程序を利用していた。
 
その「美団点餐」「美団充電宝」は700万人に利用され、十分効果があった。中国の生活総合サービス市場は、2020年の19兆5000億元から2025年には、35兆3000億元になるとみられる。オンライン比率も24、3%から30、8%にアップすると予想されている。
 
2023年第1四半期、美団の生活総合サービス部門の売上は、429億元、前年比25、5%増、アリババのそれは125億4900万元、同17、0%増だった。フードデリバリーシェアは69%、アリババ系餓了蘑は26%と見られている。大きくリードしているが、競争は激化の一途だ。ショートビデオの「快手」「抖音(TikTok)」などの進出が急だ。
 
そうした危機感から反撃手段を講じている。その1つは、快手、抖音のコアビジネスに対抗するライブコマースへの進出だ。加盟店や関係者向けにライブ放送ツールを提供するアプリを発表、またライブコマースセンターを設置した。有名人を招待したイベントを開催するなど、さまざまな事業を展開していく。さらに、各社が苦戦する共同購入にもライブを利用、競争の新次元を開くつもりだ。そのためなら、アリババ系の支付宝と提携することもいとわない。支付宝は支付宝で、微信との苛烈なスーパーアプリ競争があり、有力なアプリの参加は歓迎だ。今後は系列にとらわれない戦いとなる。
 
衛霊公十五の二十三
 
『子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎。子曰、其恕乎。已所不欲、勿施於人。』
 
子貢が孔子に問うた。「一言で表す、終生行なうべきことはありますか。」孔子曰く、「それは恕だな。自分の望まないことを、他人にすることがないように。」
 
(現代中国的解釈)
 
その美団が、OpenAI企業「光年之外」を買収し、話題になっている。メディアから察すると、これは望まれない買収ではないようである。
 
(サブストーリー)
 
財務レポートによれば、美団は赤字が続いている。2022年には176億7000万件の配達注文を受けたが、その物流コストは801億9000万元。それに対する収入は700億6400万元で、注文一回当たり、0,57元(約11円)の損失が出る。
 
さらに新規事業も赤字である。美団買菜(生鮮電商)美団優選(社区団購)美団打車(配車アプリ)などの新サービスで、2020年、109億元、21年、384億元、22年、284億元の欠損を出している。全体売上は順調に伸び、赤字幅も縮小しているが、期待値を下回り、株価は下落している。
 
美団の持つ176億件の発注データは、大変なデータ資産である。しかし検索エンジンの「百度」やショートビデオ「抖音」に比べると、美団の事業は取引が中心で、コンテンツとの繋がりは弱い。例えば、現状の美団プラットフォームに大型商品を組み込むのは、非常な困難を伴うという。こうした弱点をAI技術の導入によって補おうというのだ。AIはどんなソリューションを示すのだろうか。株主の望むことをやれるだろうか。

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