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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第123回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の四十三~四十五
 
憲問十四の四十三
 
『子張曰、書云、高宗諒陰三年不言、何謂也。子曰、何必高宗。古之人皆然。君薨、百官総已、以聴於家宰三年。』
 
子張曰く、「書経に言う高宗は3年の服喪期間、話をしなかった、とはどういう意味でしょう。」孔子曰く、「何も高宗だけに限らない。昔の人は皆そうだった。主君が死去すれば、百官が皆、自分の仕事をまとめて、家宰に指示を仰ぐこと3年に及んだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
コロナの3年間は、服喪期間だったのだろうか。そうではない。煎れたてコーヒーの宅配で一世を風靡した、瑞幸珈琲(Luckin Coffee)にとっては、激動の3年間だった。
 
(サブストーリー)
 
2020年1月、データ捏造(売上、費用の水増し)の不正経理が発覚、6月、米国ナスダック市場から退場させられた。同年下半期には、取締役の解任、新任、不信任、従業員からの突き上げなど混乱が続く。中国当局からの行政処分、米国では株主訴訟を起こされた。それにもかかわらず、2020年の売上は40億3300万元、前年比33%増と好調だった。スターバックスとちがい配達に特化していた分、コロナ禍はプラスに作用した。
 
さらに2021年は売上79億6530万元と前年比97,5%増とほぼ倍増。2022年は売上132億9300万元、前年比66,9%増、と勢いはとどまるところを知らない。2022年には、2190店舗出店し、総店舗数は8214店舗となった。2022年中には、罰金、訴訟など、負の遺産は、ほぼ解消した。
 
前瞻産業研究所によれば、2020年の珈琲市場は3000億元、2025年には1兆元が予想されている。日米の1人当たり年間消費量が350杯なのに対し、中国はわずか5杯に過ぎない。地方都市など未開拓市場は広大だ。無理に、売上や費用の水増しをする必要などなかった。
 
この3年間は、法令順守の責任ある企業へ向けての服喪期間だった、と言えるかも知れない。
 
 
 
 
憲問十四の四十四
 
『子曰、上好礼、則民易使也。』
 
孔子曰く、「上に立つものが礼を好むなら、民は使いやすくなる。」
 
(現代中国的解釈)
 
結局のところ、大を成す経営者は、人品を重んじる。中国企業時価総額トップ、テンセントの創業者、馬化騰もそう言っている。以下は、インタビューからの抜粋。
 
「我々が、プロフェッショナルを探すときに重視するのは、人柄だ。テンセントの第一価値観、誠実にかなう人物だ。テンセントの誠実とは、人を束縛したり、政治的な主張をしない。ただ正直で、シンプルで、現実的である。」「そうでなければ、スムーズな組織構造の調整はできないからだ。」
 
(サブストーリー)
 
テンセントには、PCインターネット時代からの有力SNS商品の「QQ」があった。当時の看板商品だった。しかし、それにこだわらずモバイル時代の到来に合わせ、新しいSNS、「微信、We Chat」を開発した。モバイルインターネットは、全く異なるエコシステムであると感知し、組織構造を調整したのである。そして瞬く間に中国最大のネットインフラに成長した。QQも、We Chatとは異なる方向性を見つけ、今もそれなりの存在感を放っいる。
 
また、モバイル決済の重要性に気付き、すぐにアリババのAlipayを追いかけた。この両者の争いにより、モバイル決済は、2014~2016年ごろ、一気に普及した。銀聯カードをを駆逐してしまった。さらに2017年には、ダウンロード不要のミニプログラム「微信小程序」を開発、その結果、We Chatは、OSと見紛うばかりのスーパーアプリとなったのである。
 
馬化騰は、改革も競争もいとわない。テンセントの成功は、所属部課の利害を超える、大胆な組織の調整スピードと、それを支える経営層の人間力にあった。
 
憲問十四の四十五
 
『子路問君子。子曰、脩己以敬。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安人。曰、脩己以安百姓。脩己以百姓、堯舜其猶病諾。』
 
子路が君子について問うた。孔子曰く、「自らを修養して、慎み深い。」子路曰く、「それだけですか。」孔子曰く、「自らを修養して、人を安心させる。」子路曰く、「それだけですか。」
孔子曰く、「自分を修養して、万民を安心させる。自分を修養して、万民を安心させることは、堯舜といえども、大変に苦労した。」
 
(現代中国的解釈)
 
小紅書という独特のアプリがある。顧客ニーズに応じて、変化を重ねてきた。このアプリは、独自の修養を重ねてきた、といってよいかも知れない。。
 
(サブストーリー)
 
小紅書は、海外の買い物経験、情報をシェアする活動から始まった。やがて情報は、観光全般、スポーツ、不動産、など広範囲に拡大。これらの情報データを基に2014年、小紅書福利社を立ち上げた。豊富な情報から、推奨商品と推奨ルートを提示し、独自の越境Eコマースサイトを構築した。
 
やがて投稿、口コミサイトして、超強力な存在になっていく。化粧品会社がKOLによる販促を企図する場合、採用を考えるアプリナンバーワンとなった。何しろ女性ユーザー比率が90%に近い。あらゆる観光地の情報が満載で、日本観光においても極めて役に立つ。あらゆる観光地の、それも女性目線の経験談が多くその安心感は半端ない。さらに共同購入プラットフォーム“小紅店”やショートビデオアプリ“Hey”をスタート、生活総合サービスを志向し始めた。
 
その小紅書が、最近になって、飲食店の加盟募集を始めた。社内テストを始めるようだ。生活総合サービスへの第一歩である。出店者やKOLのためのサポートプランもスタートした。抖音(海外名・TikTok)と同じく、美団の生活総合サービスを食いちぎる動きだ。抖音と同様、小紅書も、投稿、視聴の分析から、興味を持つ可能性の高い商品へ誘い込める。あらゆる有力アプリが、同じ方向へ収斂しつつあるようだ。修養を積んだ結果だろうか。

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