見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第120回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
憲問十四の三十五~三十七
 
憲問十四の三十五
 
『子曰、驥不称其力、称其徳也。』
 
孔子曰く、「名馬はその脚力を称えられるのではない。その風格を称えられるのだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の銀行に風格はあるのだろうか。某有力銀行支店長の話では、信用事故のニュースとともに、不正行員のニュースも、定期的にというか、ほぼ間段なく、配信されてくるという。筆者の妻の弟は、中小企業の経営者だが、かつて取引銀行の担当者が、逮捕された、と平然と語っていた。DX化が急速に進展し、不正の余地は相当狭まったはずだが、メディアを見ると、そうでもなさそうである。
 
(サブストーリー)
 
中国メディアは、「退職、辞任は逃げ切りではない。多くの銀行幹部が離任後に“落馬”している。」という記事を掲載した。大物は光大集団の前董事長、李曉鵬だ。光大集団とは、国有の巨大金融グループで、光大銀行を始め、証券、保険、投資信託、その他信託、リース、投資、環境保護、観光、医療などの企業を経営している、李曉鵬はそのトップを務め昨年3月に退任した。それが1年後に、厳重な規律違反と違法行為で捜査対象となった。
 
国有四大銀行の一つで、中国最初の近代的銀行「中国銀行」の前董事長、劉連舸も同様である。3月上旬、中国銀行は、劉連舸がすべての役職を辞任した、と発表した。当局の捜査対象とわかったのは、その2週間後だった。
 
また広発銀行の王桂芝も 退職後に捜査対象となった。広発銀行は、改革開放政策における金融体制改革のモデル銀行として、1988年に設立された。最も設立の早い“株式制商業銀行”であり、広東省の高度経済成長に大きな貢献した。中国銀行ランキングで20位以内に入る有力行だ。
 
バラエティーに富んだメンバーだが、いずれも大きな影響力のある銀行で、日本なら上や下への大騒ぎになるだろう。4月現在、金融関係で29人が捜査対象となり、そのうち国有銀行関係は9人である。メインは光大集団で、昨年夏以来、捜査が続き、最後に前董事長までたどり着いた。誰を捜査するのか、対象選びに困ることはなく、当然、その人選には、はっきりした意思が働いている。
 
憲問十四の三十六
 
『或曰、以徳報怨、何如。子曰、何以報徳。以直報怨、以徳報徳。』
 
ある人曰く、「恩恵によって怨みに報じるのはどうでしょう。」孔子曰く、「何によって恩恵に報じるのでしょう。思ったとおりに行ないにより怨みに報じ、恩恵によって恩恵に報じようではありませんか。」
 
(現代中国的解釈)
 
抖音(海外名TikTok)と騰訊視頻(テンセント・ビデオ)が提携を発表した。抖音の運営会社バイトダンスとテンセントは、2017年、Musical.lyの買収をめぐって激しく争った。バイトダンスは首尾よくMusical.lyを手に入れ、自社開発のTikTokと総合、その後の大発展する基礎を作った。また両者は、版権をめぐり訴訟合戦を繰り返すなど、険悪な関係のイメージが強かった。しかし、時代は変わった。
 
(サブストーリー)
 
発表によれば、両者は長短ビデオのプロモーションやショートビデオの二次創作について連携する。騰訊視頻は、情報ネットワークへの普及権やサブライセンスを持つ長編動画、抖音へライセンスを与え、二次創作の方法とルールを規定する。これにより質の高いショートコンテンツの作成と普及を後押しする。抖音はこれまで長編動画の版権を尊重し、長編動画プラットフォームとのより良い関係を模索してきた。それをライバル、テンセントとの提携で達成した。互いのクリエーター、ユーザー、プラットフォームにとってWin-Winの関係になると期待されている。怨みをリセットし、恩恵によって報じようとする動きである。
 
憲問十四の三十七
 
『子曰、莫我知也夫。子貢曰、何為其莫和子也。子曰、不怨天、不尤人、下学而上達。知我者其天乎。』
 
孔子曰く、「私を理解する者はいない。」子貢曰く、「どうして先生を理解すつ者がいないのでしょうか。」孔子曰く、「天を怨まず、人を咎めず、学問をして上達する。私を理解する者は天かな。」
 
(現代中国的解釈)
 
京東の創業者、劉強東が再び活動を始めた。2018年、米国ミネソタ州で婦女暴行事件を起こし、逮捕された。不起訴にはなったものの、それ以来、経営の最前線から、一歩引いていた。実権を手放さざるを得なかった、文化大革命前の毛沢東状態だった。それが、現状に業を煮やし、本格復帰した。これは人々に、理解されているのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
そして大規模な組織変更を企図していることが明らかとなった。事業郡を事業部にあらためるという。事業部の下に、ビジネスユニットに沿って分割されたカテゴリー(事業単位)を置く。旧事業群長がカテゴリー長となり、人事権を含む多くの経営権を付与する。 
これまでの組織を細分化した上で、権限も与える。小分けにするということだろう、それに、これからは直営とPOPの区別をしない。両者はカテゴリー長によって、統合管理される。POPとは要はマーケットプレイスの分類だ。
 
1 FBP(Fulfillment BY POP)…販売者は出店、京東は倉庫、物流、決済を担当。
2 LBP(Logistics BY POP)…販売者は京東物流センターに出荷。配達と決済は京東。
3 Sopl(Sale On POP&Logistics By POP)…2と同じだが、請求、決済は販売者。
4 SOP(Sale On POP)…販売者は出店のみ、直接配達、決済。
 
以上の4種類だが、これからは、直営とマーケットプレイスの区別、つまり売り方は重要ではない。これからは、より商品そのものに深くコミットする、ということだろう。総合通販企業は、プラットフォーム運営に依存しすぎ、商品のプロは少ない。とすればこれは正しい方向性かも知れない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?