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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第95回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
顔淵十二の二十~二十一
 
顔淵十二の二十
 
『子張問、士何如斯可謂之達矣。子曰、何哉、爾所謂達者。子張対曰、在邦必聞、在家必聞。子曰、是聞也。非達也。夫達者、質直而好義。察言而観色、慮以下人。在邦必達、在家必達。夫聞者、色取仁而行違、居之不疑。在邦必聞、在家必聞。』
 
子張が問うた。「士とはどのように達人になるのでしょうか。」孔子曰く「君のいう達人とはどういう人かな。」「国に仕えれば評判となり、貴族に仕えても評判となる人です。」孔子曰く、「それは有名人で、達人ではない。達人とは実直で正義を愛し。言葉を推察し。人を慮る。国にあっても、貴族に仕えても必ず優れた仕事をする。これに対し有名人は、表面は仁を装っていても実際は違う。これに疑問を持たない。国に仕えれば評判となり、貴族に仕えても評判となる。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国には、有名人ばかりで、達人は存在するのか、ということになる。アリババ創業者、ジャック・マーと現CEOの張勇の関係を考えてみよう。カリスマ性や知名度、発信力において、両者は比較にならない。張勇は、アリババ創業グループ“十八羅漢”のメンバーではないし、見た目もどこにでもいるおじさん風である。
 
(サブストーリー)
 
張勇は、アリババ創立8年後の2007年、財務のプロとして入社した。主力通販サイト「淘宝網」の首席財務官となり、翌年には総経理に昇進した。B2C通販の制度設計をリードし、2009年、初の黒字化を達成する。この年に始まったのが、かの有名な双11(11月11日独身の日セール)だ。第一回2009年の売上は5000万元、参加したブランドは19だった。その後は、以下のように、爆発的発展を遂げる。張勇はここでも、そのグランドデザインを仕上げたとされる。
 
2009年 5000万元
2010年 9億3600万元
2011年 52億元
2012年 191億元
2013年 352億元
2014年 571億元
2015年 912億元
2016年 1207億元
2017年 1683億元
2018年 2135億元
2019年 2683億元
2020年 4982億元
2021年 5403億元
 
13年間で1万倍を超え、世界小売業の奇跡とされた。、平日は杭州のアリババ本社に勤務、週末は上海の自宅で過ごす生活をしていた張勇は2011年、上海の銀行業界に復帰しようとした。ジャック・マーは引き止め、2015年には、アリババCEOを譲り、後継者に指名した。
 
CEOとなった2015年、張勇は、ライバル京東の物流部門の総監だった侯毅をスカウトする。翌年1月、新零售(ニューリテール)の象徴となる新型スーパー「盒馬鮮生」をスタートさせた。侯毅の抱いていた構想は、京東ではなく、アリババで実現した。相談に乗り、サポートしたのは、やはり張勇だった。
 
つまりアリババとは、ジャック・マーが、監督兼主演だが、シナリオライターは、つねに張勇であった。張勇は正体不明の後継者ではなかった。彼こそどこに仕えても評判となる現代の達人だろう。
 
 
顔淵十二の二十一
 
『燓遅従遊於舞雩之下。曰、敢問崇徳脩慝弁惑。子曰、善哉問。先事後得、非崇徳与。攻其悪、無攻人之悪、非脩慝与。一朝之忿忘其身以及其親、非惑与。』
 
燓遅が孔子に随行し、雨乞いの舞台を歩きながら問うた。「あえて、徳を高め、悪を避け、迷いを解く道についてお尋ねします。」孔子曰く、「よい質問だ。先に仕事をし、利益後回しににすれば、徳は高まるだろう。自分の落ち度を責め、他人を責めなければ、悪意は去るだろう。一時の怒りに身を任せ、親族にまで禍いを及ぼすのは、迷いだろう。」
 
(現代中国的解釈)
 
有望なベンチャー企業は、確かに利益を後回しにしている。投資ファンドから資金を集めるが。投資需要は大きくさらに資金が欲しい。それを満たすのは上場だが、中国国内市場への上場は、黒字化が必須で、審査も厳格で時間がかかる。赤字でもスピーディーな上場が可能なのは、香港か米国株式市場である。特に米国株式市場は魅力だ。世界に名を知ららしめるのは、中国人企業家の虚栄心をくすぐる。本音は米国好きである。米中関係が厳しくても、米国IPOを目指す企業は絶えない。
 
(サブストーリー)
 
2021年最大の米国上場は、40億ドルの調達を目論んだ配車アプリ「滴滴出行」だった。この企業も赤字上場だった。しかし、6月30日、米国上場した途端に、新規ダウンロード禁止等の厳しい処分を受けた。データのセキュリティーが問題とされた。要は、中国政府より先に、米国市場にビッグデータを知られるのは耐えられなかったということか。
 
同じ6月には、もう一つの配車アプリ、「满帮集団」が米国上場し15億ドルを調達した。中国メディアは、世界初の“デジタル運送企業”の上場と評した。滴滴出行ほど知られていないのは、荷主とトラック運転手をマッチングするB2B企業だからである。上場前には、ソフトバンクGやアルファベットも出資していた。2021年の売上は46億6000万元、前年比80.4%増、成約額は2623億元、50.9%増と好調だった。注文件数は以1億2800万件月間平均荷主数は150万に及ぶ。そして“非米国会計基準”では、黒字となった。
 
满帮集団は2017年11月、運満満と貨車帮の2社の合併により誕生した。運満満は、アリババのB2B営業部隊にいた張暉が、2013年、南京で創業したトラック配車アプリである。貨車帮は2011年設立、ガソリンスタンドと提携し、給油ビッグデータから。効率的な給油方法等を提供するアプリだった。こちらにはテンセントが出資していた。この2つが投資家の仲介により合併し、4年後にナスダック上場にこぎつけた。
 
ちなみに滴滴出行の創業者・程維もアリババの出身である。利益を後回しにして、デジタルチャイナの建設に尽力した、といえないこともない。アリババは、高い徳を持つ人材訓練センターだった。そして米国株式市場は、財務面での孵化器であった。
 

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